本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではございません. 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください.
薬剤情報
主な有害事象
RACE試験²⁾のhATG+CsA+EPAG群 (B群) 96例より引用.
Grade3以上の有害事象をイベント数の多い順に記載.
- 感染症 63イベント.
- 血液リンパ系異常 33イベント.
- 胃腸障害 24イベント.
- 血管障害 10イベント.
- 神経系障害 9イベント.
- 呼吸器障害 9イベント.
- 肝胆道系障害 7イベント.
- 筋骨格系・結合組織障害 7イベント.
- 心障害 6イベント.
- 代謝栄養障害 6イベント.
- 腎尿路系障害 6イベント.
- 皮膚皮下組織障害 5イベント.
特徴と注意点
- hATG : anti-thymocyte globulin、 抗ヒト胸腺細胞ウマ免疫グロブリン (アトガムⓇ)
- CsA : シクロスポリン (ネオーラルⓇ)
- TPO-RA : thrombopoietin receptor antagonist (トロンボポエチン受容体作動薬)
- EPAG : エルトロンボパグ (レボレードⓇ)
- ROMI : ロミプロスチム (ロミプレートⓇ)
hATG+CsA+TPO-RAの適応¹⁾
- 再生不良性貧血のステージ2b~5の症例.
- 再生不良性貧血のステージ1及び2aでCsA開始後に血小板減少や貧血が進行し、 輸血が必要な症例.
hATG+CsA+TPO-RAの治療効果判定¹⁾
- 治療効果判定は3ヵ月を目安に行う.
- Late responderのこともあり6ヵ月までは無効と判断せずに経過を観察する.
各薬剤の特徴、 用法・用量、 主な副作用とその対策
hATG
- これまでATG製剤としてはウマATGが主として使用されていたが、 ウマATGの製造中止に伴い、 2008 年からウサギATG (サイモグロブリンⓇ)が使用されている. しかしウマATGに比べてウサギATGの治療成績が劣るという報告が相次いでなされ、 欧州では重症再生不良性貧血の第一選択薬としてウマATGが推奨されている. これより医療上必要性が高いと評価され、 厚生労働省より開発要請を受けウマATGが開発・販売された.
- hATGは40mg/kgを4日間投与する.
- 血清病、 ショック、 アナフィラキシー、 サイトカイン放出症候群等のInfusion reactionが現れることがある.
- hATG投与前に副腎皮質ホルモン剤や抗ヒスタミン剤等を投与する.
- hATG初回投与時は、 投与開始後1時間は極めて緩徐に投与する.
- hATGは4時間以上かけて投与する. 12-18時間かけて投与することが望ましい.
- hATG又は他のウマ血清製剤の投与歴のある患者には、 他種由来の抗ヒト胸腺細胞免疫グロブリン製剤の投与も考慮した上で、 慎重に投与する.
《初回投与時忍容性の確認》
プリック試験
- hATG0.02mLでプリック試験を実施し、 穿刺から10分後に膨疹が認められた場合プリック試験陽性と判断する.
- プリック試験陽性の患者には有益性と危険性を検討の上、 投与の是非を判断する.
皮内反応試験 (プリック試験で膨疹が認められない場合)
- hATGを生食で1000倍に希釈した薬液0.02mLと、 対象となる生食0.02mLを皮内に投与する.
- 皮内投与10分後に、 対象と比較して直径が3mm以上大きい膨疹が認められた場合は皮内試験陽性と判断する.
- 皮内試験陽性の患者には有益性と危険性を検討の上、 投与の是非を判断する.
《副腎皮質ホルモン剤の投与法》

- 副作用 : 血清病、 ショック、 アナフィラキシー、 サイトカイン放出症候群、 骨髄抑制、 感染症、 間質性肺炎、 腎機能障害、 肝機能障害など.
- hATG投与後1~2ヵ月はリンパ球減少のため、 真菌、 ニューモシスチス・イロヴェチ、 結核、 VZV、 CMVなどの感染症を起こしやすい. 抗菌薬、 抗真菌薬、 抗ウイルス薬の予防投与を考慮.
CsA
- CsAは5mg/kgをhATGの投与初日から開始する.
- CsA開始後速やかに血中濃度を測定する.
- 内服2時間後濃度 (C2) がAUCに最も良く相関するため、 600ng/mL以上となるよう調整する.
- CsA内服は食後よりも食前とした方が高いC2が得られやすい.
- 血清クレアチニンが投与前値の150%以上に上昇した場合には投与量を半量または4分の3量に減量する.
- 治療反応が得られた場合は血球上昇が一定に達した後に漸減・中止する.
- CsAは血球数が回復傾向にある間は投与を続け、 血球数の上昇が頭打ちとなり、 3 ヵ月以上変化が見られない場合、 1mg/kg減量する. 3ヵ月経過をみて血球数の低下がみられない場合にはさらに同量を減量する.
- CsA併用の効果は非重症例では確認されておらず、 stage3 よりも重症度の低い非重症例においてはh ATG 単剤でもよい可能性がある.
- 副作用 : 腎機能障害、 肝機能障害、 中枢神経系障害 (可逆性後白質脳症症候群、 高血圧性脳症など)、 感染症、 進行性多巣性白質脳症、 血栓性微小血管障害など.
EPAG
- 経口可能なトロンボポエチン受容体の低分子アゴニスト (TPO-RA) .
- TPO受容体の活性化により骨髄幹細胞・前駆細胞・巨核球の分化・増殖を促進し、 多系統の血球増加を促す.
- EPAGによる染色体異常陽性細胞の誘発リスクを考慮してEPAGを併用するか検討する.
- ATGとの併用において、 EPAGは75mgを1日1回経口投与.
- EPAGは保険診療上ATG投与後一定期間経過してから開始する必要がある. ATGによる肝機能障害がないことを確認した上でできるだけ早期から併用することが推奨されている.¹⁾ 従って、 Day15又はDay1にEPAGを開始するスケジュール画像を載せたがこの限りではない.
- 食事の前後2時間を避けて空腹時に内服.
- 制酸剤、 乳製品、 ミネラルサプリメント、 多価陽イオンを含む製剤との相互作用があるため、 EPAG服用前4時間および服用後2時間は摂取を避ける.

- EPAGは少なくとも3ヵ月までは継続し、 CRであれば中止. PR以下であれば同じ用量で6ヵ月まで継続. EPAG中止後に再発した場合は同量再開を検討.
・CR : Hb>10g/dL、 好中球数>1,000/mm³、 Plt>10万/mm³
・PR : 重症再生不良性貧血の基準を満たさない、 輸血不要、 Hb>8g/dL、 好中球数>500/mm³、 Plt>2万/mm³.
- 副作用 : 肝機能障害、 血栓塞栓症、 骨髄線維化など.
ROMI
- 経口可能なトロンボポエチン受容体の低分子アゴニスト (TPO-RA) .
- 2023年9月、 『再生不良性貧血』として適応追記.
- CsA又は抗胸腺細胞免疫グロブリンで未治療の場合は両薬剤と併用する.
- 初回投与量10µg/kgを週1回皮下投与する. 用量調節時は1回5µg/kgずつ調節し、 最高投与量は週1回20µg/kgとする.
- hATG+CsA+EPAGで治療導入し、 3ヵ月時点で網赤血球・血小板の増加を認めない場合はEPAGからROMIに切り替える. メテノロンまたはダナゾール (保険適応外) の追加も可能.
その他
- G-CSFの併用は推奨されない (感染症併発時に早急な好中球回復を得たい場合は考慮).¹⁾
- メテノロンまたはダナゾール (保険適応外) の追加も可能.
臨床試験
概要
- 海外多施設共同非盲検無作為化III相試験.
- 対象 : 治療歴のない重症・最重症AA患者.
- 介入 : A群; hATG (40mg/kg、 4日間)+CsA (5mg/kg) vs B群; hATG (40mg/kg、4日間)+CsA (5mg/kg)+EPAG (150mg/日).
・EPAGの投与量は本邦と異なることに注意.
- 評価項目 : 治療反応割合、 全奏効率など
- Complete response (CR) : Hb>10.0g/dL、 好中球>1,000/mm³、 Plt>10万/mm³ (輸血なし).
結果
- 3ヵ月時点のCR率 : A群 10% vs. B群 22%、 OR 3.2 (95%CI 1.3-7.8、 p=0.01).
- 6ヵ月時点の全奏効率 : A群 41% vs B群 68%.
- 初回奏効が得られるまでの期間 (中央値) : A群 8.8ヵ月 vs B群 3.0ヵ月.
- 2年時点の核型異常 : A群 1例 (monosomy 7) vs B群 2例 (del(13q)).
- 6ヵ月時点の体細胞変異 : A群 66% vs B群 55%.
- 2年無イベント生存率 : A群 34% (95%CI 24-44) vs B群 46% (95%CI 36-57).
参考文献
- 再生不良性貧血診療の参照ガイド 令和4年改訂版
- N Engl J Med. 2022 Jan 6;386(1):11-23.
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最終更新:2023年1月3日
執筆担当:北里大学病院薬剤部 宮島律子
監修医師:東海大学血液腫瘍内科 扇屋大輔