概要
監修医師
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません。  個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください。 手足症候群の特徴や薬剤ごとの発現頻度、 予防、 治療について解説します。

1.定義

抗がん剤により手掌や足底などの四肢末端部に発現する、 発赤、 腫脹、 そして著しい不快感、 うずきといった皮膚関連有害事象の総称である

直接的に、 生命を脅かすものではないが、 著しく患者のQOLを低下させる原因となることがある.

2.原因

(1) 細胞障害性抗がん薬

フッ化ピリミジン系抗がん薬 (特にカペシタビン) やドキソルビシン リポソーム化製剤、 ドセタキセルなどで高頻度に発現する

カペシタビン ドキソルビシン リポソーム化製剤
フルオロウラシル テガフール・ウラシル
テガフール・ギメラシル・オテラシル ・ ドセタキセル など

(2) 分子標的薬

レゴラフェニブやソラフェニブなどの分子標的薬で高頻度に発現する

レゴラフェニブ ソラフェニブ スニチニブ
レンバチニブ ゲフィチニブ  エルロチニブ
アファチニブ  オシメルチニブ など

3.症状

それぞれ、 以下の順で症状を呈することが多い

(1) 細胞障害性抗がん薬

  • 早期にはしびれ、 チクチクまたはピリピリするような感覚の異常
この時期には皮膚に視覚的な変化を伴わないこともある.
  • 皮膚所見として比較的びまん性の発赤 (紅斑)
  • 少し進行すると皮膚表面の光沢が生じ、 指紋が消失する傾向や色素沈着がみられるようになり、 次第に疼痛を伴う
  • さらに進行すると、 過角化・落屑・亀裂や水疱、 びらん、 潰瘍が生じる
重篤副作用疾患別対応マニュアル 手足症候群 厚生労働省 7ページより引用

(2) 分子標的薬

  • 早期にはしびれ、 チクチクまたはピリピリするような感覚の異常
この時期には皮膚に視覚的な変化を伴わないこともある.
  • 手指腹部、 関節部や踵のような、 物理的刺激のかかる部位など圧力のかかる部位に限局性に紅斑、 水疱が生じることが多い.疼痛を伴うことも多い.
フッ化ピリミジン系薬剤などと比較し臨床像は高度.
  • 症状が進行すると、 著明な紅斑、 水疱形成、 強い疼痛が認められ、 日常生活に支障が生じる.
重篤副作用疾患別対応マニュアル 手足症候群 厚生労働省 7ページより引用

4.発現機序

細胞障害性抗がん薬と分子標的薬のどちらも、 手足症候群の詳細な発現機序は明確ではない.

(1) 細胞障害性抗がん薬

▼フッ化ピリミジン系抗がん薬

皮膚基底細胞の増殖能阻害、 エクリン汗腺からの薬剤分泌、 5-FUの分解産物の関与などが示唆

▼ドキソルビシン リポソーム化製剤

ドキソルビシンが PEG 修飾リポソームに覆われた特徴的な構造を有する. PEG 修飾リポソームは親水性であり、 手掌や足底のエクリン腺に集積し、 汗と共に広がることで発症の可能性を報告

(2) 分子標的薬

PDGFR、 c-KITの阻害による表皮やエクリン汗腺の障害などが示唆

5.発現時期

(1) 細胞障害性抗がん薬

発現は穏やかで、 数週~数ヵ月後が多い

(2) 分子標的薬

比較的早期に発現し、 数日〜数週が多い

6.評価

CTCAE ver5 手掌・足底発赤知覚不全症候群

>CTCAE JCOG提供の日本語翻訳版とは?

(1) 細胞障害性抗がん薬

Grade1 色素沈着、 紅斑がみられる

Grade2 発赤、 腫脹、 軽度の疼痛の訴え

Grade3 両側母指先端に亀裂と疼痛の訴え

手足症候群アトラス ゼローダ投与のマネジメント(第4改訂版) P8より引用

(2) 分子標的薬

Grade1 限局性の紅斑から始まることが多い. 日常生活には支障をきたさない.

Grade2 皮膚が角化し、亀裂を伴うことも

Grade3 角化が高度に. 水疱や膿疱形成も

スチバーガ適正使用ガイド P20より引用

予防

手足症候群に対する確立された治療はなく、 現時点では 「予防」 が最も重要である。

予防の3原則 「保湿・保清・保護」

保湿は、発症予防・症状軽減につながるため、 治療開始時より保湿剤を塗布

白色ワセリン、 ヘパリン類似物質、 尿素含有製剤など

圧力、 熱、 摩擦などの発症・悪化リスク因子を避けるような生活指導

治療

原因薬剤の休薬・再開について

手足症候群の治療法と予防法は確立していないため、 確実な処置は「原因薬剤の休薬」 

休薬によりすみやかに改善する。 ただし、 再発を避けるため、 休薬して症状が回復した後は「減量」しての再投与が基本である

手足症候群が認められた場合の対症療法

基本は、ステロイド外用薬 (very strong ~strongestクラス)の塗布

炎症・疼痛には、 経口のNSAIDsを用いる

掻痒には、 抗ヒスタミン薬を用いる.

外用ジフェンヒドラミンなど

参考文献

  • 重篤副作用疾患別対応マニュアル 手足症候群 厚生労働省
  • 手足症候群アトラス ゼローダ投与のマネジメント(第4改訂版)
  • バイエル薬品株式会社. スチバーガ適正使用ガイド (2020年3月 第8版) [最終閲覧 2023年11月15日]
  • Gressett SM, Stanford BL, Hardwicke F. J Oncol Pharm Pract 2006;12:131-141.

最終更新日:2023年12月16日
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1.定義

抗がん剤により手掌や足底などの四肢末端部に発現する、 発赤、 腫脹、 そして著しい不快感、 うずきといった皮膚関連有害事象の総称である

直接的に、 生命を脅かすものではないが、 著しく患者のQOLを低下させる原因となることがある.

2.原因

(1) 細胞障害性抗がん薬

フッ化ピリミジン系抗がん薬 (特にカペシタビン) やドキソルビシン リポソーム化製剤、 ドセタキセルなどで高頻度に発現する

カペシタビン ドキソルビシン リポソーム化製剤
フルオロウラシル テガフール・ウラシル
テガフール・ギメラシル・オテラシル ・ ドセタキセル など

(2) 分子標的薬

レゴラフェニブやソラフェニブなどの分子標的薬で高頻度に発現する

レゴラフェニブ ソラフェニブ スニチニブ
レンバチニブ ゲフィチニブ  エルロチニブ
アファチニブ  オシメルチニブ など

3.症状

それぞれ、 以下の順で症状を呈することが多い

(1) 細胞障害性抗がん薬

  • 早期にはしびれ、 チクチクまたはピリピリするような感覚の異常
この時期には皮膚に視覚的な変化を伴わないこともある.
  • 皮膚所見として比較的びまん性の発赤 (紅斑)
  • 少し進行すると皮膚表面の光沢が生じ、 指紋が消失する傾向や色素沈着がみられるようになり、 次第に疼痛を伴う
  • さらに進行すると、 過角化・落屑・亀裂や水疱、 びらん、 潰瘍が生じる
重篤副作用疾患別対応マニュアル 手足症候群 厚生労働省 7ページより引用

(2) 分子標的薬

  • 早期にはしびれ、 チクチクまたはピリピリするような感覚の異常
この時期には皮膚に視覚的な変化を伴わないこともある.
  • 手指腹部、 関節部や踵のような、 物理的刺激のかかる部位など圧力のかかる部位に限局性に紅斑、 水疱が生じることが多い.疼痛を伴うことも多い.
フッ化ピリミジン系薬剤などと比較し臨床像は高度.
  • 症状が進行すると、 著明な紅斑、 水疱形成、 強い疼痛が認められ、 日常生活に支障が生じる.
重篤副作用疾患別対応マニュアル 手足症候群 厚生労働省 7ページより引用

4.発現機序

細胞障害性抗がん薬と分子標的薬のどちらも、 手足症候群の詳細な発現機序は明確ではない.

(1) 細胞障害性抗がん薬

▼フッ化ピリミジン系抗がん薬

皮膚基底細胞の増殖能阻害、 エクリン汗腺からの薬剤分泌、 5-FUの分解産物の関与などが示唆

▼ドキソルビシン リポソーム化製剤

ドキソルビシンが PEG 修飾リポソームに覆われた特徴的な構造を有する. PEG 修飾リポソームは親水性であり、 手掌や足底のエクリン腺に集積し、 汗と共に広がることで発症の可能性を報告

(2) 分子標的薬

PDGFR、 c-KITの阻害による表皮やエクリン汗腺の障害などが示唆

5.発現時期

(1) 細胞障害性抗がん薬

発現は穏やかで、 数週~数ヵ月後が多い

(2) 分子標的薬

比較的早期に発現し、 数日〜数週が多い

6.評価

CTCAE ver5 手掌・足底発赤知覚不全症候群

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(1) 細胞障害性抗がん薬

Grade1 色素沈着、 紅斑がみられる

Grade2 発赤、 腫脹、 軽度の疼痛の訴え

Grade3 両側母指先端に亀裂と疼痛の訴え

手足症候群アトラス ゼローダ投与のマネジメント(第4改訂版) P8より引用

(2) 分子標的薬

Grade1 限局性の紅斑から始まることが多い. 日常生活には支障をきたさない.

Grade2 皮膚が角化し、亀裂を伴うことも

Grade3 角化が高度に. 水疱や膿疱形成も

スチバーガ適正使用ガイド P20より引用

予防

手足症候群に対する確立された治療はなく、 現時点では 「予防」 が最も重要である。

予防の3原則 「保湿・保清・保護」

保湿は、発症予防・症状軽減につながるため、 治療開始時より保湿剤を塗布

白色ワセリン、 ヘパリン類似物質、 尿素含有製剤など

圧力、 熱、 摩擦などの発症・悪化リスク因子を避けるような生活指導

治療

原因薬剤の休薬・再開について

手足症候群の治療法と予防法は確立していないため、 確実な処置は「原因薬剤の休薬」 

休薬によりすみやかに改善する。 ただし、 再発を避けるため、 休薬して症状が回復した後は「減量」しての再投与が基本である

手足症候群が認められた場合の対症療法

基本は、ステロイド外用薬 (very strong ~strongestクラス)の塗布

炎症・疼痛には、 経口のNSAIDsを用いる

掻痒には、 抗ヒスタミン薬を用いる.

外用ジフェンヒドラミンなど

参考文献

  • 重篤副作用疾患別対応マニュアル 手足症候群 厚生労働省
  • 手足症候群アトラス ゼローダ投与のマネジメント(第4改訂版)
  • バイエル薬品株式会社. スチバーガ適正使用ガイド (2020年3月 第8版) [最終閲覧 2023年11月15日]
  • Gressett SM, Stanford BL, Hardwicke F. J Oncol Pharm Pract 2006;12:131-141.

最終更新日:2023年12月16日
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