irAEのマネジメント
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではございません。 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください。 (監修:京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 助教 山内一郎先生)
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) による下垂体機能異常 (以下、下垂体irAE) は、 抗CTLA-4抗体により高頻度に生じるが、 抗PD-1抗体、 抗PD-L1抗体でも低頻度ではあるものの一定数の発症が見られ注意が必要である。
📊臨床試験のメタアナリシスの報告¹⁾
・抗CTLA-4抗体単独:3.2%
・抗PD-1抗体単独 :0.4%
・両者の併用療法 :6.4%
📊実臨床での報告はさらに高頻度で要注意²⁾³⁾
・抗CTLA-4抗体単独:12.8%²⁾
・抗PD-1抗体単独 :1.9%³⁾
・両者の併用療法 :20.1%
📈抗PD-1抗体、 抗PD-L1抗体の場合
下垂体からは多くのホルモンが分泌されるが、 ACTH分泌のみが障害されるACTH単独欠損型がほとんどである³⁾
📈抗CTLA-4抗体を併用した場合
ACTH分泌障害がほぼ全例で見られるのは同様だが、 それ以外にTSHやLH/FSHの分泌障害も伴う複合型が一定数見られる⁴⁾⁵⁾
📅抗PD-1抗体、 抗PD-L1抗体の場合
ICI初回投与から4~6か月と比較的遅い³⁾⁶⁾
📅抗CTLA-4抗体を併用した場合
2~3ヶ月とより早期発症の傾向がある⁴⁾⁷⁾
ACTH分泌障害は副腎皮質機能低下症をきたし、 強い倦怠感、 食思不振などが生じることから、 しばしば全身状態が著しく悪化するため速やかな対応が求められる。
抗CTLA-4抗体を併用する際は、 発症頻度が非常に高く、 事前に内分泌代謝科専門医と施設における対応について協議すべきである。
💬 抗PD-1抗体あるいは抗PD-L1抗体を用いるレジメンの場合、 下垂体irAEは約2%と稀であるが、 倦怠感・食思不振などの症状が強く出るため、 有症状時には主治医に相談する。
💬 抗CTLA-4抗体を併用するレジメンの場合には、 下垂体irAEは高頻度に発症し、 5人に1人に上るとする報告もあるため、 治療中は常に体調の変化がないか注意が必要である。
💬 発症した場合、 ほぼ全例でACTH分泌障害が起こり、 また治癒せずヒドロコルチゾンなどの副腎皮質ステロイドの内服が生涯必要となる可能性が高い。
有症状時ににコルチゾール(+ACTH) を測定するのが基本である。 ただし、 抗CTLA-4抗体を併用する場合には、 高頻度であるため、 コルチゾール (+ACTH) を1ヶ月毎、 あるいはレジメンに応じて6週毎などにチェックした方が見落としを防ぐ観点で安全かもしれない。
なお、 コルチゾールは原則として正常下限以下となるが、 ACTHは発症時点でも正常域であることがあり、 判断に注意が必要である。
採血の時間帯は午前を推奨するガイドラインもあるが⁸⁾、 午後に採血しても正常域にあれば下垂体irAEを除外でき、 もし午後に採血して低値であった場合も症状に乏しければ後日午前に再検査すればよい。
発症予測として 「発症前からFT3/FT4比が増加する³⁾」 「好酸球が増加する⁹⁾」 という報告があり、 これらは定期測定を検討する余地がある。
「疑った時点」 でヒドロコルチゾンを投与する。
コルチゾール値の結果判明に時間がかかる施設が多いと思われるが、 検査提出ないし検体保存を行い次第、 結果判明を待つのではなくヒドロコルチゾン投与を先行すべきである。 すなわち、 コルチゾール値の結果が判明し、 低値でなかった場合にはその時点でヒドロコルチゾン投与を終了すれば良い。
入院を要するような全身状態不良の場合
50~100mgの点滴投与をまず行い、
その後15~20mg/日の内服まで漸減
食思不振や倦怠感の場合
15~20mg/日の内服を開始
ヒドロコルチゾンの維持投与法としては、 15~20mg/日を2~3分割して朝を多くする。
例:朝10mg、 夕5mg
例:朝10mg、 昼5mg、 夕5mg
発熱、 強い痛み、 感染などいわゆるシックデイに際しては増量を要し、 外来加療可能な全身状態であれば30mg/日とするのが覚えやすい。
例:30mg/日 (朝10mg、昼10mg、夕10mg)
入院が必要な重篤な状態であれば、 1日2~3回の点滴投与、 または24時間持続投与を行う。
例:50~100mgの点滴投与を1日2~3回
例:100~200mgの24時間持続投与
以上は抗PD-1抗体あるいは抗PD-L1抗体のみを用いるレジメンの場合に起こるACTH単独欠損型を念頭に置いて概説した。
ACTH単独欠損型は一般的に下垂体腫大も認めず (図1A)、 画像検査は省略可能である。 しかし、 抗CTLA-4抗体を併用した場合にしばしば起こる複合型は、 まだ全容は明らかではないものの、 臨床像が異なり注意が必要である。 例えば、 頭痛やMRIにおける下垂体腫大 (図1B) が起こることが特徴であり、 ICI再投与後の再燃も経験するため、 ヒドロコルチゾンの投与量についても議論の余地がある。
最終更新:2023年2月15日
監修:京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 助教 山内一郎先生
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではございません。 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください。 (監修:京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 助教 山内一郎先生)
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) による下垂体機能異常 (以下、下垂体irAE) は、 抗CTLA-4抗体により高頻度に生じるが、 抗PD-1抗体、 抗PD-L1抗体でも低頻度ではあるものの一定数の発症が見られ注意が必要である。
📊臨床試験のメタアナリシスの報告¹⁾
・抗CTLA-4抗体単独:3.2%
・抗PD-1抗体単独 :0.4%
・両者の併用療法 :6.4%
📊実臨床での報告はさらに高頻度で要注意²⁾³⁾
・抗CTLA-4抗体単独:12.8%²⁾
・抗PD-1抗体単独 :1.9%³⁾
・両者の併用療法 :20.1%
📈抗PD-1抗体、 抗PD-L1抗体の場合
下垂体からは多くのホルモンが分泌されるが、 ACTH分泌のみが障害されるACTH単独欠損型がほとんどである³⁾
📈抗CTLA-4抗体を併用した場合
ACTH分泌障害がほぼ全例で見られるのは同様だが、 それ以外にTSHやLH/FSHの分泌障害も伴う複合型が一定数見られる⁴⁾⁵⁾
📅抗PD-1抗体、 抗PD-L1抗体の場合
ICI初回投与から4~6か月と比較的遅い³⁾⁶⁾
📅抗CTLA-4抗体を併用した場合
2~3ヶ月とより早期発症の傾向がある⁴⁾⁷⁾
ACTH分泌障害は副腎皮質機能低下症をきたし、 強い倦怠感、 食思不振などが生じることから、 しばしば全身状態が著しく悪化するため速やかな対応が求められる。
抗CTLA-4抗体を併用する際は、 発症頻度が非常に高く、 事前に内分泌代謝科専門医と施設における対応について協議すべきである。
💬 抗PD-1抗体あるいは抗PD-L1抗体を用いるレジメンの場合、 下垂体irAEは約2%と稀であるが、 倦怠感・食思不振などの症状が強く出るため、 有症状時には主治医に相談する。
💬 抗CTLA-4抗体を併用するレジメンの場合には、 下垂体irAEは高頻度に発症し、 5人に1人に上るとする報告もあるため、 治療中は常に体調の変化がないか注意が必要である。
💬 発症した場合、 ほぼ全例でACTH分泌障害が起こり、 また治癒せずヒドロコルチゾンなどの副腎皮質ステロイドの内服が生涯必要となる可能性が高い。
有症状時ににコルチゾール(+ACTH) を測定するのが基本である。 ただし、 抗CTLA-4抗体を併用する場合には、 高頻度であるため、 コルチゾール (+ACTH) を1ヶ月毎、 あるいはレジメンに応じて6週毎などにチェックした方が見落としを防ぐ観点で安全かもしれない。
なお、 コルチゾールは原則として正常下限以下となるが、 ACTHは発症時点でも正常域であることがあり、 判断に注意が必要である。
採血の時間帯は午前を推奨するガイドラインもあるが⁸⁾、 午後に採血しても正常域にあれば下垂体irAEを除外でき、 もし午後に採血して低値であった場合も症状に乏しければ後日午前に再検査すればよい。
発症予測として 「発症前からFT3/FT4比が増加する³⁾」 「好酸球が増加する⁹⁾」 という報告があり、 これらは定期測定を検討する余地がある。
「疑った時点」 でヒドロコルチゾンを投与する。
コルチゾール値の結果判明に時間がかかる施設が多いと思われるが、 検査提出ないし検体保存を行い次第、 結果判明を待つのではなくヒドロコルチゾン投与を先行すべきである。 すなわち、 コルチゾール値の結果が判明し、 低値でなかった場合にはその時点でヒドロコルチゾン投与を終了すれば良い。
入院を要するような全身状態不良の場合
50~100mgの点滴投与をまず行い、
その後15~20mg/日の内服まで漸減
食思不振や倦怠感の場合
15~20mg/日の内服を開始
ヒドロコルチゾンの維持投与法としては、 15~20mg/日を2~3分割して朝を多くする。
例:朝10mg、 夕5mg
例:朝10mg、 昼5mg、 夕5mg
発熱、 強い痛み、 感染などいわゆるシックデイに際しては増量を要し、 外来加療可能な全身状態であれば30mg/日とするのが覚えやすい。
例:30mg/日 (朝10mg、昼10mg、夕10mg)
入院が必要な重篤な状態であれば、 1日2~3回の点滴投与、 または24時間持続投与を行う。
例:50~100mgの点滴投与を1日2~3回
例:100~200mgの24時間持続投与
以上は抗PD-1抗体あるいは抗PD-L1抗体のみを用いるレジメンの場合に起こるACTH単独欠損型を念頭に置いて概説した。
ACTH単独欠損型は一般的に下垂体腫大も認めず (図1A)、 画像検査は省略可能である。 しかし、 抗CTLA-4抗体を併用した場合にしばしば起こる複合型は、 まだ全容は明らかではないものの、 臨床像が異なり注意が必要である。 例えば、 頭痛やMRIにおける下垂体腫大 (図1B) が起こることが特徴であり、 ICI再投与後の再燃も経験するため、 ヒドロコルチゾンの投与量についても議論の余地がある。
最終更新:2023年2月15日
監修:京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 助教 山内一郎先生
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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