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アドバイザー : 国立がん研究センター中央病院 病理診断科 科長 谷田部 恭 先生、 国立研究開発法人国立がん研究センター 先端医療開発センタートランスレーショナルインフォマティクス分野 分野長 土原 一哉 先生
腫瘍性の形質転換 (neoplastic transformation) は、 遺伝子変異の蓄積によって生じる¹⁾。 遺伝子変異の種類や発現頻度は、 個々の腫瘍によって、 また腫瘍のタイプによってばらつきがある。
がんに関連する遺伝子変異は、 体細胞変異 (somatic mutation) と生殖細胞系列変異 (germline mutation) に大別される。
ゲノム上に存在する塩基配列の違いは、 バリアントと呼ばれ、 変異及び多型 (先天的に存在するバリアントのなかで、 病的でないもの) を含む³⁾。 主なバリアントの種類を、 下表に示す³⁾。
遺伝子の翻訳領域内に生じた塩基配列の置換には、 同義置換と非同義置換がある。 同義置換は、 アミノ酸のコーディングに変化を与えない変異 (サイレント変異) ¹⁾で、 通常、 変異を生じた遺伝子の機能に影響を与えないと考えられている³⁾。 非同義置換は、 アミノ酸が変化する変異 (ミスセンス変異、 ナンセンス変異) ¹⁾で、 変異を生じた遺伝子の機能に影響することが知られている³⁾ 。
腫瘍遺伝子変異量 (tumor mutation burden : TMB) とは、 腫瘍のゲノムのタンパク質コード部分における体細胞変異の総数である¹⁾⁴⁾。
TMBの増加に関連する遺伝子異常として、 ミスマッチ修復 (MMR) 関連遺伝子 (MSH2、 MSH6、 MLH1、 PMS2) やDNAポリメラーゼ (POL) 遺伝子 (POLE、 POLD1) が知られている。 DNA POLは、 DNA複製時のエラー修復機能 (校正機能) やMMR過程の一部を担う。 POLE、 POLD1は、 それぞれのエラー修復機構に関与している。
MSI-Highとは、 ミスマッチ修復 (mismatch repair : MMR) 機能不全により、 後天的にマイクロサテライトの反復回数の変化が高頻度に認められる状態を示す。 MSI-High固形癌ではTMB-Highになることが多いが、 TMB-High固形癌のすべてがMSI-Highとは限らない。
ネオアンチゲンは、 アミノ酸が変化する変異由来またはウイルスに関連した抗原であり、 免疫系によって 「異物」 または 「非自己」 として認識される。 ネオアンチゲンは、 腫瘍・免疫細胞表面に発現し、 T細胞に認識され、 T細胞の活性化につながることから、 がん免疫療法の効果予測において重要と考えられている。
腫瘍の体細胞変異が多いほど、 ネオアンチゲンも多く形成されることから、 TMBは腫瘍によるネオアンチゲン量の推定に役立つと考えられる。 腫瘍・免疫細胞の表面に提示されるネオアンチゲンがすべて免疫原性を示すわけではないが、 TMBが高いほど、 腫瘍・免疫細胞上に免疫原性のネオアンチゲンが提示される可能性が高いことが知られている。 TMB-High腫瘍では遺伝子変異量が増加することでネオアンチゲン反応性T細胞による認識が高まる可能性があるため、 免疫チェックポイント阻害剤が反応しやすいと考えられている。
肺癌 (タバコ) や悪性黒色腫 (紫外線) など慢性的な変異原への曝露に関連するがんでは、 体細胞変異数が多く、 ネオアンチゲンが形成される可能性も高い。
30のがん種・7,042の腫瘍検体における4,938,362の塩基置換/Indelについて評価した結果、 体細胞変異数はがん種によって異なり、 同じがん種でも個体差が大きいことが示された (範囲 : 0.01 mut/Mb未満~400 mut/Mb超)。
現在、 TMB-Highを有する固形癌に対してペムブロリズマブが承認されている*。 ペムブロリズマブの適応を判定するためのコンパニオン診断には、 TMB測定検査としてFoundationOne®CDxがんゲノムプロファイル (F1CDx) のみが承認されている¹⁾。 コンパニオン診断としてF1CDxを用いる場合は、 結果の特別な解釈は必要なく、 専門家による会議体であるエキスパートパネルでの検討は不要である²⁾。
一方、 下表のがん遺伝子パネル検査は、 TMBスコアを算出可能な包括的がんゲノムプロファイリング検査 (CGP) としても使用される。 なお、 OncoGuideᵀᴹ NCCオンコパネルシステムおよびGenMineTOP®がんゲノムプロファイリングシステムによるTMBスコア算出の手法は臨床的に確立されていないが³⁾⁴⁾、 いずれのCGPもTMBスコアはレポートに記載される。 CGPは、 得られた遺伝子異常の病的意義や対応する候補薬剤の有無などに関して、 エキスパートパネルでの検討が必要となる。
がん遺伝子パネル検査の詳細は、 がん遺伝子パネル検査を参照ください。
腫瘍遺伝子変異量検査⁷⁾
がんゲノムプロファイリング検査等⁷⁾
国内ガイドラインでの記載
日本臨床腫瘍学会/日本癌治療学会/日本小児血液・がん学会編の 「成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン 第3版⁸⁾」 において、 TMB-Highの項目が新設され、 TMB測定の検査対象・方法・治療が詳細に解説されている。 また、 Clinical question (CQ) では、 TMB検査の対象 (CQ6)、 TMB検査法 (CQ7)、 TMB-Highに対する治療 (CQ8) について推奨度が示されている。
現在、 化学療法歴のある進行・再発の固形癌に対するペムブロリズマブの有効性および安全性を検討するKEYNOTE-158試験のデータ¹⁾に基づき、 「がん化学療法後に増悪した高い腫瘍遺伝子変異量 (TMB-High) を有する進行・再発の固形癌 (標準的な治療が困難な場合に限る) 」 に対する適応が承認されている。
なお、 本試験では、 FoundationOne® CDxで解析されたTMBが10mut/Mb以上の症例をTMB-Highとして定義された。
臨床試験の主要文献につきましては、 下記をご参照ください。 KEYNOTE-158試験 (TMB-H) (PMID 32919526 : Marabelle A et al. Lancet Oncol. 2020;21 : 1353-1365.)
大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス改訂第5版²⁾
がんゲノム検査は、 対象となる遺伝子の範囲によって、 下記の4つに大きく分けられる。
TMBは、 研究のみで実施されている全ゲノム検査 (WGS) や全エクソン検査 (WES) で従来評価されていた。 近年、 がん遺伝子パネル検査でも高感度にTMBを算出できることが報告され、 WES TMBと相関することから、 臨床で使用されている²⁾。
高コストのWESに替わり、 臨床使用が容易ながん遺伝子パネル検査が複数開発されている。 一方、 WESによるTMBスコアが既知の臨床検体を用いて、 複数のがん遺伝子パネル検査間のTMBスコアのばらつきを検討したところ、 特にTMBスコアの増加に伴い、 ばらつきが大きくなる傾向があることが報告されている¹¹⁾。 TMB評価の一貫性を図るため、 現在、 TMBの標準化に向けたプロジェクトが進行中である。
TMBの測定方法や、 臨床的有用性の検討方法の標準化を目的として、 米Friends of Cancer Research (Friends) と、 独Quality Assurance Initiative Pathology (QuIP) を中心とする産官学コンソーシアムが設立された。
TMB標準化・ハーモナイゼーションイニシアティブの目的
がん種横断的なPD-1/L1阻害薬の奏効率とTMBカットオフ値の相関をレトロスぺクティブに解析した結果、 固形癌患者のTMB-Highのカットオフ値として10mut/Mbを考慮して、 治験デザインや解析計画を策定することで合意した。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
アドバイザー : 国立がん研究センター中央病院 病理診断科 科長 谷田部 恭 先生、 国立研究開発法人国立がん研究センター 先端医療開発センタートランスレーショナルインフォマティクス分野 分野長 土原 一哉 先生
腫瘍性の形質転換 (neoplastic transformation) は、 遺伝子変異の蓄積によって生じる¹⁾。 遺伝子変異の種類や発現頻度は、 個々の腫瘍によって、 また腫瘍のタイプによってばらつきがある。
がんに関連する遺伝子変異は、 体細胞変異 (somatic mutation) と生殖細胞系列変異 (germline mutation) に大別される。
ゲノム上に存在する塩基配列の違いは、 バリアントと呼ばれ、 変異及び多型 (先天的に存在するバリアントのなかで、 病的でないもの) を含む³⁾。 主なバリアントの種類を、 下表に示す³⁾。
遺伝子の翻訳領域内に生じた塩基配列の置換には、 同義置換と非同義置換がある。 同義置換は、 アミノ酸のコーディングに変化を与えない変異 (サイレント変異) ¹⁾で、 通常、 変異を生じた遺伝子の機能に影響を与えないと考えられている³⁾。 非同義置換は、 アミノ酸が変化する変異 (ミスセンス変異、 ナンセンス変異) ¹⁾で、 変異を生じた遺伝子の機能に影響することが知られている³⁾ 。
腫瘍遺伝子変異量 (tumor mutation burden : TMB) とは、 腫瘍のゲノムのタンパク質コード部分における体細胞変異の総数である¹⁾⁴⁾。
TMBの増加に関連する遺伝子異常として、 ミスマッチ修復 (MMR) 関連遺伝子 (MSH2、 MSH6、 MLH1、 PMS2) やDNAポリメラーゼ (POL) 遺伝子 (POLE、 POLD1) が知られている。 DNA POLは、 DNA複製時のエラー修復機能 (校正機能) やMMR過程の一部を担う。 POLE、 POLD1は、 それぞれのエラー修復機構に関与している。
MSI-Highとは、 ミスマッチ修復 (mismatch repair : MMR) 機能不全により、 後天的にマイクロサテライトの反復回数の変化が高頻度に認められる状態を示す。 MSI-High固形癌ではTMB-Highになることが多いが、 TMB-High固形癌のすべてがMSI-Highとは限らない。
ネオアンチゲンは、 アミノ酸が変化する変異由来またはウイルスに関連した抗原であり、 免疫系によって 「異物」 または 「非自己」 として認識される。 ネオアンチゲンは、 腫瘍・免疫細胞表面に発現し、 T細胞に認識され、 T細胞の活性化につながることから、 がん免疫療法の効果予測において重要と考えられている。
腫瘍の体細胞変異が多いほど、 ネオアンチゲンも多く形成されることから、 TMBは腫瘍によるネオアンチゲン量の推定に役立つと考えられる。 腫瘍・免疫細胞の表面に提示されるネオアンチゲンがすべて免疫原性を示すわけではないが、 TMBが高いほど、 腫瘍・免疫細胞上に免疫原性のネオアンチゲンが提示される可能性が高いことが知られている。 TMB-High腫瘍では遺伝子変異量が増加することでネオアンチゲン反応性T細胞による認識が高まる可能性があるため、 免疫チェックポイント阻害剤が反応しやすいと考えられている。
肺癌 (タバコ) や悪性黒色腫 (紫外線) など慢性的な変異原への曝露に関連するがんでは、 体細胞変異数が多く、 ネオアンチゲンが形成される可能性も高い。
30のがん種・7,042の腫瘍検体における4,938,362の塩基置換/Indelについて評価した結果、 体細胞変異数はがん種によって異なり、 同じがん種でも個体差が大きいことが示された (範囲 : 0.01 mut/Mb未満~400 mut/Mb超)。
現在、 TMB-Highを有する固形癌に対してペムブロリズマブが承認されている*。 ペムブロリズマブの適応を判定するためのコンパニオン診断には、 TMB測定検査としてFoundationOne®CDxがんゲノムプロファイル (F1CDx) のみが承認されている¹⁾。 コンパニオン診断としてF1CDxを用いる場合は、 結果の特別な解釈は必要なく、 専門家による会議体であるエキスパートパネルでの検討は不要である²⁾。
一方、 下表のがん遺伝子パネル検査は、 TMBスコアを算出可能な包括的がんゲノムプロファイリング検査 (CGP) としても使用される。 なお、 OncoGuideᵀᴹ NCCオンコパネルシステムおよびGenMineTOP®がんゲノムプロファイリングシステムによるTMBスコア算出の手法は臨床的に確立されていないが³⁾⁴⁾、 いずれのCGPもTMBスコアはレポートに記載される。 CGPは、 得られた遺伝子異常の病的意義や対応する候補薬剤の有無などに関して、 エキスパートパネルでの検討が必要となる。
がん遺伝子パネル検査の詳細は、 がん遺伝子パネル検査を参照ください。
腫瘍遺伝子変異量検査⁷⁾
がんゲノムプロファイリング検査等⁷⁾
国内ガイドラインでの記載
日本臨床腫瘍学会/日本癌治療学会/日本小児血液・がん学会編の 「成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン 第3版⁸⁾」 において、 TMB-Highの項目が新設され、 TMB測定の検査対象・方法・治療が詳細に解説されている。 また、 Clinical question (CQ) では、 TMB検査の対象 (CQ6)、 TMB検査法 (CQ7)、 TMB-Highに対する治療 (CQ8) について推奨度が示されている。
現在、 化学療法歴のある進行・再発の固形癌に対するペムブロリズマブの有効性および安全性を検討するKEYNOTE-158試験のデータ¹⁾に基づき、 「がん化学療法後に増悪した高い腫瘍遺伝子変異量 (TMB-High) を有する進行・再発の固形癌 (標準的な治療が困難な場合に限る) 」 に対する適応が承認されている。
なお、 本試験では、 FoundationOne® CDxで解析されたTMBが10mut/Mb以上の症例をTMB-Highとして定義された。
臨床試験の主要文献につきましては、 下記をご参照ください。 KEYNOTE-158試験 (TMB-H) (PMID 32919526 : Marabelle A et al. Lancet Oncol. 2020;21 : 1353-1365.)
大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス改訂第5版²⁾
がんゲノム検査は、 対象となる遺伝子の範囲によって、 下記の4つに大きく分けられる。
TMBは、 研究のみで実施されている全ゲノム検査 (WGS) や全エクソン検査 (WES) で従来評価されていた。 近年、 がん遺伝子パネル検査でも高感度にTMBを算出できることが報告され、 WES TMBと相関することから、 臨床で使用されている²⁾。
高コストのWESに替わり、 臨床使用が容易ながん遺伝子パネル検査が複数開発されている。 一方、 WESによるTMBスコアが既知の臨床検体を用いて、 複数のがん遺伝子パネル検査間のTMBスコアのばらつきを検討したところ、 特にTMBスコアの増加に伴い、 ばらつきが大きくなる傾向があることが報告されている¹¹⁾。 TMB評価の一貫性を図るため、 現在、 TMBの標準化に向けたプロジェクトが進行中である。
TMBの測定方法や、 臨床的有用性の検討方法の標準化を目的として、 米Friends of Cancer Research (Friends) と、 独Quality Assurance Initiative Pathology (QuIP) を中心とする産官学コンソーシアムが設立された。
TMB標準化・ハーモナイゼーションイニシアティブの目的
がん種横断的なPD-1/L1阻害薬の奏効率とTMBカットオフ値の相関をレトロスぺクティブに解析した結果、 固形癌患者のTMB-Highのカットオフ値として10mut/Mbを考慮して、 治験デザインや解析計画を策定することで合意した。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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