Squamous cell carcinoma
有棘細胞癌 (SCC) は、 皮膚の扁平上皮細胞由来の悪性腫瘍であり、 日光紫外線曝露や慢性炎症が主な発生要因となる。 特に、 高齢者の顔面や手背などの露光部に発生することが多く、 スキンタイプの違いから白人での発生頻度が高い。
有棘細胞癌は、 日光角化症やボーエン病といった前駆病変を伴うことがある。 紫外線関連のSCCは日光角化症から生じることが多く、 ボーエン病から生じる場合もある。 また、 外陰部や爪甲下に発生するものではヒトパピローマウイルス (HPV) 感染との関連が指摘されている。 その他、 熱傷瘢痕、 慢性放射線皮膚炎、 慢性円板状エリテマトーデス、 硬化性萎縮性苔癬といった慢性炎症を伴う病変が発生母地となることもある。 さらに、 色素性乾皮症や免疫抑制状態の患者ではSCCのリスクが高まる。
日本における有棘細胞癌の罹患率は、 全国がん登録データによると、 皮膚がん全体の43.9% (そのうち18.3%は表皮内癌) を占める。 年齢調整罹患率は10万人あたり3.40であり、 基底細胞癌に次いで2番目に頻度の高い皮膚がんとされる¹⁾。
有棘細胞癌は臨床病理学的特徴、 発生母地、 病因によって分類されることがあるものの、 国際的に標準化された病型分類は確立されていない。 診療においてはUICC第8版のTNM分類が便宜上用いられることが多い。 しかし、 この分類はSCCが発生した部位によって適用方法が異なり、 頭頚部・眼瞼・それ以外に分けられる。 また、 外陰部や肛門周囲に発生したSCCはこの分類に含まれておらず、 臨床現場では適用が限定的である。
有棘細胞癌は一般に局所進展型の腫瘍であるが、 一部の症例ではリンパ節転移や遠隔転移を伴う。 再発・転移のリスク因子は以下の通り。
これらの因子を持つ症例では、 より積極的な治療や慎重な経過観察が必要とされる。
有棘細胞癌の基本的治療は外科的切除であり、 切除可能例では手術により良好な治療成績が得られる。 局所浸潤性が強いことが多く、 適切な切除マージンを確保することが重要である。
原発巣の推奨切除マージンは一般に数mmから1cm程度とされる。 腫瘍の進展度や解剖学的位置によって適切なマージンが異なり、 病理学的評価を行いながら慎重に切除範囲を決定する。
センチネルリンパ節生検は、 臨床的に明らかなリンパ節転移がない場合に考慮される。 日本では2018年3月より、 長径2cmを超える有棘細胞癌に対してセンチネルリンパ節加算が算定可能となった。 ただし、 センチネルリンパ節生検の実施が生命予後を改善するという十分な医学的根拠は現時点では確立されていない。
局所進行性または遠隔転移を有する有棘細胞癌には、 全身化学療法が適応となる。 従来の治療としては、 シスプラチンを含むレジメン CA (CDDP+Doxorubicin)、 C’A’ (CBDCA+Epirubicin)、 FP (5-FU+CDDP)や、 イリノテカン療法、 S-1療法が用いられてきた²⁾。 また、 海外ではEGFRを標的としたセツキシマブなどが用いられることもある。 これらのレジメンは少数例の報告で一定の奏効割合を示しているものの、 奏効期間が短いことが課題とされていた。 近年、 免疫チェックポイント阻害薬の高い奏効率と持続効果が報告され、 治療選択肢が広がっている。
▼セミプリマブ
局所進行または転移性有棘細胞癌患者を対象とした第I相および第II相試験EMPOWER-CSCC³⁾で、 奏効率は第1相試験で50%、 第2相試験で47%、 奏効持続期間は6ヵ月超が57%と報告された。 上皮系皮膚悪性腫瘍は国内未承認
▼ペムブロリズマブ
局所進行または再発・転移性有棘細胞癌患者を対象とした第II相試験KEYNOTE-629⁴⁾で、 奏効率は局所進行コホート50.0%、 再発・転移性コホート35.2%、 奏効期間中央値は未到達と報告された。 上皮系皮膚悪性腫瘍は国内未承認
▼Cosibelimab
転移性有棘細胞癌患者を対象とした第I相試験CK-301-101⁵⁾で、 奏効率47.4%、 奏効期間中央値は未到達と報告された。
▼ニボルマブ療法
根治切除不能な進行・再発の上皮系皮膚悪性腫瘍の患者を対象に、 ニボルマブ単独療法の有効性を評価する国内第II相試験が行われた。
上皮系皮膚悪性腫瘍患者31名 (有棘細胞癌20名、 基底細胞癌2名、 乳房外パジェット病4名、 皮膚付属器癌5名 [エクリン汗孔癌3名、 汗腺癌1名、 皮膚粘液癌1名]) の奏効割合は19.4% (有棘細胞癌は20.0%) と報告された。
この結果より、 日本では2024年2月にニボルマブが根治切除不能な進行・再発の上皮系皮膚悪性腫瘍に対し承認されている⁶⁾。 今後、 術後補助療法や術前補助療法の適用拡大が期待されている。
1) Cancer Sci 2023; 114: 2986-2992.
2) Eur J Cancer. 2020;127:108-17.
3) N Engl J Med. 2018;379(4):341-351.
4) Ann Oncol 2021; 32: 1276-1285.
5) J Immunother Cancer 2023; 11.
6) 最適使用推進ガイドライン ニボルマブ (遺伝子組換え) ~上皮系皮膚悪性腫瘍~
最終更新日 : 2025年3月5日
監修医師 : 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科 医長 並川 健二郎先生
有棘細胞癌 (SCC) は、 皮膚の扁平上皮細胞由来の悪性腫瘍であり、 日光紫外線曝露や慢性炎症が主な発生要因となる。 特に、 高齢者の顔面や手背などの露光部に発生することが多く、 スキンタイプの違いから白人での発生頻度が高い。
有棘細胞癌は、 日光角化症やボーエン病といった前駆病変を伴うことがある。 紫外線関連のSCCは日光角化症から生じることが多く、 ボーエン病から生じる場合もある。 また、 外陰部や爪甲下に発生するものではヒトパピローマウイルス (HPV) 感染との関連が指摘されている。 その他、 熱傷瘢痕、 慢性放射線皮膚炎、 慢性円板状エリテマトーデス、 硬化性萎縮性苔癬といった慢性炎症を伴う病変が発生母地となることもある。 さらに、 色素性乾皮症や免疫抑制状態の患者ではSCCのリスクが高まる。
日本における有棘細胞癌の罹患率は、 全国がん登録データによると、 皮膚がん全体の43.9% (そのうち18.3%は表皮内癌) を占める。 年齢調整罹患率は10万人あたり3.40であり、 基底細胞癌に次いで2番目に頻度の高い皮膚がんとされる¹⁾。
有棘細胞癌は臨床病理学的特徴、 発生母地、 病因によって分類されることがあるものの、 国際的に標準化された病型分類は確立されていない。 診療においてはUICC第8版のTNM分類が便宜上用いられることが多い。 しかし、 この分類はSCCが発生した部位によって適用方法が異なり、 頭頚部・眼瞼・それ以外に分けられる。 また、 外陰部や肛門周囲に発生したSCCはこの分類に含まれておらず、 臨床現場では適用が限定的である。
有棘細胞癌は一般に局所進展型の腫瘍であるが、 一部の症例ではリンパ節転移や遠隔転移を伴う。 再発・転移のリスク因子は以下の通り。
これらの因子を持つ症例では、 より積極的な治療や慎重な経過観察が必要とされる。
有棘細胞癌の基本的治療は外科的切除であり、 切除可能例では手術により良好な治療成績が得られる。 局所浸潤性が強いことが多く、 適切な切除マージンを確保することが重要である。
原発巣の推奨切除マージンは一般に数mmから1cm程度とされる。 腫瘍の進展度や解剖学的位置によって適切なマージンが異なり、 病理学的評価を行いながら慎重に切除範囲を決定する。
センチネルリンパ節生検は、 臨床的に明らかなリンパ節転移がない場合に考慮される。 日本では2018年3月より、 長径2cmを超える有棘細胞癌に対してセンチネルリンパ節加算が算定可能となった。 ただし、 センチネルリンパ節生検の実施が生命予後を改善するという十分な医学的根拠は現時点では確立されていない。
局所進行性または遠隔転移を有する有棘細胞癌には、 全身化学療法が適応となる。 従来の治療としては、 シスプラチンを含むレジメン CA (CDDP+Doxorubicin)、 C’A’ (CBDCA+Epirubicin)、 FP (5-FU+CDDP)や、 イリノテカン療法、 S-1療法が用いられてきた²⁾。 また、 海外ではEGFRを標的としたセツキシマブなどが用いられることもある。 これらのレジメンは少数例の報告で一定の奏効割合を示しているものの、 奏効期間が短いことが課題とされていた。 近年、 免疫チェックポイント阻害薬の高い奏効率と持続効果が報告され、 治療選択肢が広がっている。
▼セミプリマブ
局所進行または転移性有棘細胞癌患者を対象とした第I相および第II相試験EMPOWER-CSCC³⁾で、 奏効率は第1相試験で50%、 第2相試験で47%、 奏効持続期間は6ヵ月超が57%と報告された。 上皮系皮膚悪性腫瘍は国内未承認
▼ペムブロリズマブ
局所進行または再発・転移性有棘細胞癌患者を対象とした第II相試験KEYNOTE-629⁴⁾で、 奏効率は局所進行コホート50.0%、 再発・転移性コホート35.2%、 奏効期間中央値は未到達と報告された。 上皮系皮膚悪性腫瘍は国内未承認
▼Cosibelimab
転移性有棘細胞癌患者を対象とした第I相試験CK-301-101⁵⁾で、 奏効率47.4%、 奏効期間中央値は未到達と報告された。
▼ニボルマブ療法
根治切除不能な進行・再発の上皮系皮膚悪性腫瘍の患者を対象に、 ニボルマブ単独療法の有効性を評価する国内第II相試験が行われた。
上皮系皮膚悪性腫瘍患者31名 (有棘細胞癌20名、 基底細胞癌2名、 乳房外パジェット病4名、 皮膚付属器癌5名 [エクリン汗孔癌3名、 汗腺癌1名、 皮膚粘液癌1名]) の奏効割合は19.4% (有棘細胞癌は20.0%) と報告された。
この結果より、 日本では2024年2月にニボルマブが根治切除不能な進行・再発の上皮系皮膚悪性腫瘍に対し承認されている⁶⁾。 今後、 術後補助療法や術前補助療法の適用拡大が期待されている。
1) Cancer Sci 2023; 114: 2986-2992.
2) Eur J Cancer. 2020;127:108-17.
3) N Engl J Med. 2018;379(4):341-351.
4) Ann Oncol 2021; 32: 1276-1285.
5) J Immunother Cancer 2023; 11.
6) 最適使用推進ガイドライン ニボルマブ (遺伝子組換え) ~上皮系皮膚悪性腫瘍~
最終更新日 : 2025年3月5日
監修医師 : 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科 医長 並川 健二郎先生
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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