日常的に論文検索をする先生も多いと思います。 連載 「Dr. 岩田による医師のためのタイムマネジメント」の9回目では、 PubMedの未来について考察します。
私がシステマティックレビューやメタ分析をする際、 よく用いるのがPubMedとEmbaseです。
Embaseは1946年にオランダで作られた古いデータベースで、 1972年にはエルゼビアに組み込まれました。 データベースの質としては高いのですが、 なにしろ高額なのがネック。 通常は使っていません。
システマティックレビューを企画した時だけ加入し、 文献検索後に即座に解約しています。 それでも相当の出費を強いられます。 エルゼビア、 ガメついぜ。
一方のPubMedは無料で、 非常にありがたいです。 システマティックレビューのみならず、 通常の診療や研究での論文検索でも利用しています。 昔はGoogle Scholarと使い分けていましたが、 PubMedの機能がアップしたため、 現在はPubMedオンリーです。
PubMed最大のメリットはMEDLINEのデータが入っていることです。 MEDLINEは米国のNational Library of Medicine(NLM)が作ったオンラインのデータベースシステム。 1971年に作られました。
内容はIndex Medicusです。 元々、 論文を電話帳のように紙ベースでまとめたもので、 なんと1879年に作られたそうです。
僕が医学生の頃、 論文検索はもっぱらIndex Medicusを使っており、 非常に時間がかかったのを覚えています。
沖縄で研修医になった頃、 CD-ROMのMEDLINEが使用可能になり、 論文検索のスピードは飛躍的にアップしました。 ただ、 それでも何枚ものCD-ROMをガッチャンガッチャン差し替えて、 ジージコ、 ジージコ論文検索するのは苦痛でした。
PubMedの誕生は1997年。 最初はインターネットもダイヤルアップで、 速度が遅くて不便でした。 若い先生方には想像もできないことでしょう。 今みたいにスマホで即時に論文を探せる時代はとてもありがたいです。
歴史に関してはコチラをご覧ください。
さて、 話を元に戻しますと、 Embaseがエルゼビアの高額データベースであるのに対し、 PubMedは無料でありがたい。 が、 これがいつまで続くのか。 僕は若干不安です。
ご存知のように、 米国はトランプ第2期政権になってから、 政府関係のダウンサイジングやリストラがアグレッシブに行われています。
CDCの公衆衛生上の重要な出版物 「MMWR」 は一時発表が停止されました (その後復活)。 CDCの疫学調査チーム 「EIS」 の調査員は約半数が解雇されてしまいました*¹⁾。
世界保健機関WHOからも離脱しかねない勢いです*²⁾。
世界各国の医療関係者が無料でサービスを享受しているPubMed。 トランプ大統領がその存在に気づいたら、 「なにアメリカの国益に合致しないことやってんだ」 と立腹すること必然なのではないでしょうか。
PubMedの有料化はもちろん、 そもそも米国外での使用が禁止される可能性もあります。 PubMed自体が、 「無駄事業」 だと廃止されても不思議はありません。
「そんな荒唐無稽な」 と思う人もいるでしょうが、 そもそもトランプとイーロン・マスクはとても荒唐無稽なのです。
僕は医学生や研修医に 「レターを書くこと」 を推奨してきました。 原著論文と違いレターは簡単に書けますし、 お金もかかりません。 「論文を正確に読み、 批判的に吟味し、 建設的に議論する」 という非常に良い訓練になり、 採用されればPubMedにも名前が載ります。
「米国国立医学図書館が存続している限り、 未来永劫、 あなたの名前はPubMedに載り続けて、 100年先の医学者も読むことができるんですよ」 は、 僕の得意のジョークでした。
それがジョークじゃなくなるかもしれません。
島根医科大 (現・島根大) 卒。 沖縄県立中部病院研修医、 セントルークス・ルーズベルト病院 内科研修医を経て、 ベスイスラエル・メディカルセンター感染症フェローに。 北京インターナショナルSOSクリニックを経て、 2004年に亀田総合病院で感染症科部長、 同総合診療・感染症科部長歴任。 2008年より現職。
「タイムマネジメントが病院を変える」 など著書多数。 米国内科専門医、 感染症専門医、 感染管理認定CIC、 渡航医学認定CTHなどのほか、 漢方内科専門医、 ワインエキスパート・エクセレンスやファイナンシャル・プランナーの資格をもつ。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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