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1日前

生物学的製剤・経口JAK阻害薬の使い方 (大塚篤司氏)

生物学的製剤・経口JAK阻害薬の使い方 (大塚篤司氏)
近畿大学皮膚科学教室 主任教授の大塚篤司先生による連載です。 第5回は生物学的製剤・経口JAK阻害薬について解説いただきます。

はじめに

アトピー性皮膚炎は、 慢性かつ反復性の湿疹を主たる病変とし、 皮膚バリア機能の低下および免疫系の異常活性化が病態形成の根幹をなす疾患である。

従来の治療は、 抗炎症外用薬や全身療法が主流であった。 しかし近年は、 病態の根本に働きかける新たな治療選択肢として、 生物学的製剤および経口JAK阻害薬が導入され、 その有効性と安全性が多くの臨床試験により支持されている。

「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」¹⁾では、 2021年版からの知見の蓄積を背景に、 生物学的製剤の適用範囲が拡大するとともに、 経口JAK阻害薬についても詳細な記載が追加された。

最新のガイドラインに掲載されている生物学的製剤・経口JAK阻害薬を以下に示す。

生物学的製剤・経口JAK阻害薬の使い方 (大塚篤司氏)
(文献1を参考に編集部作成)
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アトピー性皮膚炎診療GL2024 生物学的製剤まとめ

作用機序と特徴

生物学的製剤

ヒトまたは遺伝子組換え技術により作製された抗体や融合タンパク質である。 IL‐4、 IL‐13、 IL‐31など特定のサイトカインのシグナル伝達を遮断することで、 炎症の進行を抑制する。

経口JAK阻害薬

細胞内でサイトカインシグナルを伝達するJAK‐STAT経路に働きかけることで、 複数の炎症性サイトカインの作用を同時に抑制するという特徴がある。

特に、 バリシチニブはJAK1およびJAK2を、 ウパダシチニブおよびアブロシチニブはJAK1を選択的に阻害することにより、 IL‐4、 IL‐13、 IL‐31などのTh2サイトカインを介した炎症反応の抑制に寄与する。

生物学的製剤の適応と使用指針

デュピルマブ (デュピクセント®)

生物学的製剤・経口JAK阻害薬の使い方 (大塚篤司氏)

200mgシリンジ / 300mgシリンジ / 300mgペン

IL‐4受容体αに結合し、 IL‐4およびIL‐13のシグナル伝達を阻害するモノクローナル抗体である。

成人に対しては、 1日1回の皮下投与が基本であり、 初回は600mg、 その後は300mgを維持用量とするが、 患者の状態に応じた用量調整が行われる。

小児に対しては、 生後6ヵ月以上から使用可能とされ、 皮下投与によって治療が行われる。

投与開始後16週以内に十分な治療反応が認められない場合は、 治療継続の再評価が推奨される。

ネモリズマブ (ミチーガ®)

生物学的製剤・経口JAK阻害薬の使い方 (大塚篤司氏)

30mgバイアル / 60mgシリンジ

IL‐31受容体Aに特異的に結合し、 IL‐31のシグナル伝達を遮断するモノクローナル抗体である。

成人に対しては、 1日1回の皮下投与が基本で、 初回は規定の用量 (例 : 600mg) を投与し、 その後は300mg程度で維持する。

小児については、 6歳以上で使用可能とされ、 同様に皮下投与により治療が行われる。

投与開始後16週以内に十分な治療反応が認められなければ、 治療の継続を再評価することが推奨される。

トラロキヌマブ (アドトラーザ®)

生物学的製剤・経口JAK阻害薬の使い方 (大塚篤司氏)

150mgシリンジ / 300mgペン

IL‐13に対する中和抗体として作用し、 IL‐13シグナルを遮断する。

成人に対しては、 1日1回の皮下投与が基本であり、 初回は600mg、 その後は300mgを用いるが、 患者の病態に合わせた用量調整が行われる。

小児適用は厳密な基準に基づいて決定され、 皮下投与で治療が実施される。

一定期間内 (例 : 16週以内) に十分な治療効果が得られない場合は、 治療計画の再検討が推奨される。

経口JAK阻害薬の適応と使用指針

「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」では、 経口JAK阻害薬として以下の3剤が取り上げられている。

バリシチニブ (オルミエント®)

生物学的製剤・経口JAK阻害薬の使い方 (大塚篤司氏)

1mg錠 / 2mg錠 / 4mg錠

JAK1/2阻害薬であり、 成人に対しては1日1回4mgを基本用量として使用するが、 患者の状態に応じて2mgへの減量も考慮する。

小児に対しては2歳以上で使用可能とされ、 経口薬として初めて低年齢層への適応が拡大された。

投与開始後8週以内に十分な治療反応が認められない場合は、 中止の検討が推奨される。

ウパダシチニブ (リンヴォック®)

生物学的製剤・経口JAK阻害薬の使い方 (大塚篤司氏)

7.5 mg錠 / 15mg錠 / 30mg錠 / 45mg錠

JAK1選択的阻害薬であり、 成人および12歳以上かつ体重30kg以上の小児に対して使用される。

1日1回15mgまたは30mgで経口投与し、 治療効果の評価は12週以内に行われる。 効果が不十分な場合は、 用量調整や治療中止を検討する。

アブロシチニブ (サイバインコ®)

生物学的製剤・経口JAK阻害薬の使い方 (大塚篤司氏)

50mg錠 / 100mg錠 / 200mg錠

JAK1選択的阻害薬であり、 成人および12歳以上の小児に使用可能である。

1日1回の経口投与として、 通常は100mgを基本用量とし、 患者の症状に応じて200mgへの増量が可能である。

治療反応の評価は12週以内に行い、 改善が認められない場合は中止を考慮する。

今後の展望

生物学的製剤は、 アトピー性皮膚炎の治療において急速に進展している分野であり、 新たな標的分子の探索や製剤改良が進められている。

将来的には、 患者の遺伝的背景や病態に基づいた個別化医療 (パーソナライズド・メディシン) の一環として、 生物学的製剤の適用範囲がさらに拡大すると期待される。

また、 長期的な安全性や効果の評価に関する追跡調査の結果が蓄積されることで、 治療アルゴリズムの最適化が進むと考えられる。


<出典>
1) 日本皮膚科学会 : アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024.
2) Lancet. 1989 Jul 15;2(8655):155.
3) Clin Exp Dermatol. 1991 Nov;16(6):444-7.
4) J Invest Dermatol. 1967 Feb;48(2):181-3.
生物学的製剤・経口JAK阻害薬の使い方 (大塚篤司氏)

こちらの記事の監修医師
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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