概要
監修医師
従来、 化学療法歴のあるHER2陽性又はHER2低発現の手術不能・再発乳癌、 がん化学療法後に増悪したHER2 (ERBB2) 遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺癌、 ならびにHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発胃癌に適応を有していたが、 2025年8月25日に 「ホルモン受容体陽性かつHER2低発現又は超低発現の手術不能・再発乳癌」 が追加承認された。
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません。 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください。

薬剤情報

エンハーツ® (添付文書¹⁾/適正使用ガイド²⁾*)

*第一三共株式会社の外部サイトへ遷移します

投与スケジュール

【1コース】 21日間
【催吐性*】 中等度 (日本)、 高度 (NCCN GL) 
【FN発症**】 低リスク
*本邦の制吐薬適正使用ガイドラインと、 NCCNガイドライン 「Antiemesis」 における分類は異なる点に留意が必要
**DESTINY-Breast06試験のFN発生率1.2%²⁾より編集部が分類

トラスツズマブ デルクステカン (T-DXd) 5.4 mg/kgを3週ごとに点滴静注。 初回は90分かけて投与し、 忍容性が確認できれば2回目以降は30分まで短縮可能

エンハーツ®電子添文情報¹⁾を基に編集部作成

Key Data|臨床試験結果

📊 DESTINY-Breast06試験

N Engl J Med. 2024;391(22):2110-2122.

ホルモン受容体陽性かつHER2低発現又は超低発現の転移性乳がん患者で、 1レジメン以上の内分泌療法歴があり化学療法未治療の866例を対象に、 国際多施設共同の無作為化第III相非盲検試験が実施された。 HER2低発現713例と超低発現153例が、 トラスツズマブ デルクステカン群又は医師選択 (カペシタビン、 アルブミン懸濁型パクリタキセル、 パクリタキセル) による単剤化学療法群に1:1で割り付けられ、 主要評価項目はHER2低発現群におけるPFSとされた。 
HER2低発現 : IHC 1+、 又はIHC 2+かつISH陰性
HER2超低発現 : IHC 0だが膜染色を認める (IHC >0かつ<1+)

【有効性】T-DXd群 (vs 医師選択治療群)

HER2低発現 :

- PFS中央値 13.2ヵ月 (vs 8.1ヵ月)

  • ハザード比 (HR) 0.62 (95%CI 0.52–0.75、 p<0.001)

- 奏効率 56.5% (vs 32.2%)

  • 奏効期間中央値 14.1ヵ月 (vs 8.6ヵ月)

HER2超低発現 :

- PFS中央値 13.2ヵ月 (vs 8.3ヵ月)

  • ハザード比 (HR) 0.78 (95%CI 0.50–1.21)

- 奏効率 61.8% (vs 26.3%)

  • 奏効期間中央値 14.3ヵ月 (vs 14.1ヵ月)

【安全性】主な有害事象 : 全Grade (Grade≧3)

- 悪心 65.9% (1.6%)

- 疲労 46.8% (3.7%)

- 脱毛症 45.4% (0%)

- 好中球減少 37.6% (20.7%)

- ALT増加 29.5% (2.3%)

- 貧血 28.1% (5.8%)

- 嘔吐 27.2% (1.4%)

- 下痢 23.7% (1.8%)

- 食欲減退 23.5% (1.4%)

- 白血球減少 23.3% (6.9%)

- 手掌・足底発赤知覚不全症候群 0.5% (0%)

各プロトコル

適格基準

DESTINY-Breast06試験³⁾の主な適格基準 :

- 18歳以上 (日本では20歳以上)

- ECOG PS 0–1

- 好中球数≧1,500/mm³

- 血小板数≧10万/mm³

- ヘモグロビン≧9.0g/dL

- 腎機能 : CrCl≧30mL/min

- 肝機能 : AST/ALT≦ 3×ULN、 T-Bil≦1.5×ULN

- LVEF≧50%

用量レベル

有害事象発現時の減量・休薬・中止基準

エンハーツ®電子添文情報¹⁾を基に編集部作成
DESTINY-Breast06試験³⁾では、 上記に加え、 悪心Grade 3発現時はGrade≦1に回復するまで休薬し、 回復が7日以内の場合は同量で、 7日超の場合は1段階減量で再開とされた。

レジメンの特徴と注意点

作用機序の特徴

T-DXdは、 HER2に対するヒト化モノクローナル抗体と、 トポイソメラーゼⅠ阻害作用を有するカンプトテシン誘導体をリンカーで結合させた抗体薬物複合体である。 腫瘍細胞膜上のHER2に結合し、 細胞内に取り込まれた後リンカーが加水分解され、 遊離したカンプトテシン誘導体がDNA傷害作用とアポトーシス誘導作用を示すことで腫瘍増殖を抑制すると考えられている。

本レジメンの位置付け

乳癌に対するT-DXdの適応症と、 その承認根拠となったピボタル試験は以下のとおり。

T-DXd (化学療法歴のあるHER2陽性又はHER2低発現) を確認する

HOKUTOレジメンツールに遷移します

レジメン適用時の注意事項

間質性肺疾患 : 投与開始前および投与中は呼吸状態・咳・発熱などの臨床症状を観察し、 SpO₂、 胸部X線、 CTを定期的に実施。 必要に応じてKL-6、 PaO₂、 A-aDO₂、 DLcoなども評価。 CT画像などの読影は呼吸器疾患に精通した医師の助言を得る。 患者には初期症状出現時の速やかな受診を指導する。

心毒性 : LVEF低下の可能性があるため、 投与開始前に心機能を確認。 投与中は心症状や重症度に応じて心エコー等を適宜実施し、 LVEF変動を含めた状態を観察のうえ、 休薬・再開・中止を判断する。

DESTINY-Breast06試験³⁾のプロトコルでは、 LVEFはスクリーニング時、 サイクル5 Day 1、 以降は4サイクルごとに測定された。

RMP【重要な特定されたリスク】

エンハーツ®医薬品リスク管理計画書 (RMP)

- 間質性肺疾患

- 骨髄抑制

- Infusion reaction

コンパニオン診断薬の情報

HER2低発現又は超低発現の確認には、 以下の体外診断用医薬品又は医療機器が承認されている。

ベンタナ ultraView パスウェー HER2 (4B5) 

出典

  1. 第一三共株式会社 エンハーツ®︎点滴静注用 電子添文 2025年8月改訂 第12版
  2. 第一三共株式会社 エンハーツ®︎点滴静注用 適正使用ガイド. 2025年8月改訂
  3. N Engl J Med. 2024;391(22):2110-2122.
最終更新日 : 2025年8月27日
執筆 : HOKUTO編集部 がん専門・指導薬剤師
監修医師 : HOKUTO編集部 監修医師

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T-DXd (Trastuzumab deruxtecan) : ホルモン療法歴あり・化学療法歴なしの全コンテンツはアプリからご利用いただけます。
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません。 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください。

薬剤情報

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投与スケジュール

【1コース】 21日間
【催吐性*】 中等度 (日本)、 高度 (NCCN GL) 
【FN発症**】 低リスク
*本邦の制吐薬適正使用ガイドラインと、 NCCNガイドライン 「Antiemesis」 における分類は異なる点に留意が必要
**DESTINY-Breast06試験のFN発生率1.2%²⁾より編集部が分類

トラスツズマブ デルクステカン (T-DXd) 5.4 mg/kgを3週ごとに点滴静注。 初回は90分かけて投与し、 忍容性が確認できれば2回目以降は30分まで短縮可能

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Key Data|臨床試験結果

📊 DESTINY-Breast06試験

N Engl J Med. 2024;391(22):2110-2122.

ホルモン受容体陽性かつHER2低発現又は超低発現の転移性乳がん患者で、 1レジメン以上の内分泌療法歴があり化学療法未治療の866例を対象に、 国際多施設共同の無作為化第III相非盲検試験が実施された。 HER2低発現713例と超低発現153例が、 トラスツズマブ デルクステカン群又は医師選択 (カペシタビン、 アルブミン懸濁型パクリタキセル、 パクリタキセル) による単剤化学療法群に1:1で割り付けられ、 主要評価項目はHER2低発現群におけるPFSとされた。 
HER2低発現 : IHC 1+、 又はIHC 2+かつISH陰性
HER2超低発現 : IHC 0だが膜染色を認める (IHC >0かつ<1+)

【有効性】T-DXd群 (vs 医師選択治療群)

HER2低発現 :

- PFS中央値 13.2ヵ月 (vs 8.1ヵ月)

  • ハザード比 (HR) 0.62 (95%CI 0.52–0.75、 p<0.001)

- 奏効率 56.5% (vs 32.2%)

  • 奏効期間中央値 14.1ヵ月 (vs 8.6ヵ月)

HER2超低発現 :

- PFS中央値 13.2ヵ月 (vs 8.3ヵ月)

  • ハザード比 (HR) 0.78 (95%CI 0.50–1.21)

- 奏効率 61.8% (vs 26.3%)

  • 奏効期間中央値 14.3ヵ月 (vs 14.1ヵ月)

【安全性】主な有害事象 : 全Grade (Grade≧3)

- 悪心 65.9% (1.6%)

- 疲労 46.8% (3.7%)

- 脱毛症 45.4% (0%)

- 好中球減少 37.6% (20.7%)

- ALT増加 29.5% (2.3%)

- 貧血 28.1% (5.8%)

- 嘔吐 27.2% (1.4%)

- 下痢 23.7% (1.8%)

- 食欲減退 23.5% (1.4%)

- 白血球減少 23.3% (6.9%)

- 手掌・足底発赤知覚不全症候群 0.5% (0%)

各プロトコル

適格基準

DESTINY-Breast06試験³⁾の主な適格基準 :

- 18歳以上 (日本では20歳以上)

- ECOG PS 0–1

- 好中球数≧1,500/mm³

- 血小板数≧10万/mm³

- ヘモグロビン≧9.0g/dL

- 腎機能 : CrCl≧30mL/min

- 肝機能 : AST/ALT≦ 3×ULN、 T-Bil≦1.5×ULN

- LVEF≧50%

用量レベル

有害事象発現時の減量・休薬・中止基準

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DESTINY-Breast06試験³⁾では、 上記に加え、 悪心Grade 3発現時はGrade≦1に回復するまで休薬し、 回復が7日以内の場合は同量で、 7日超の場合は1段階減量で再開とされた。

レジメンの特徴と注意点

作用機序の特徴

T-DXdは、 HER2に対するヒト化モノクローナル抗体と、 トポイソメラーゼⅠ阻害作用を有するカンプトテシン誘導体をリンカーで結合させた抗体薬物複合体である。 腫瘍細胞膜上のHER2に結合し、 細胞内に取り込まれた後リンカーが加水分解され、 遊離したカンプトテシン誘導体がDNA傷害作用とアポトーシス誘導作用を示すことで腫瘍増殖を抑制すると考えられている。

本レジメンの位置付け

乳癌に対するT-DXdの適応症と、 その承認根拠となったピボタル試験は以下のとおり。

T-DXd (化学療法歴のあるHER2陽性又はHER2低発現) を確認する

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間質性肺疾患 : 投与開始前および投与中は呼吸状態・咳・発熱などの臨床症状を観察し、 SpO₂、 胸部X線、 CTを定期的に実施。 必要に応じてKL-6、 PaO₂、 A-aDO₂、 DLcoなども評価。 CT画像などの読影は呼吸器疾患に精通した医師の助言を得る。 患者には初期症状出現時の速やかな受診を指導する。

心毒性 : LVEF低下の可能性があるため、 投与開始前に心機能を確認。 投与中は心症状や重症度に応じて心エコー等を適宜実施し、 LVEF変動を含めた状態を観察のうえ、 休薬・再開・中止を判断する。

DESTINY-Breast06試験³⁾のプロトコルでは、 LVEFはスクリーニング時、 サイクル5 Day 1、 以降は4サイクルごとに測定された。

RMP【重要な特定されたリスク】

エンハーツ®医薬品リスク管理計画書 (RMP)

- 間質性肺疾患

- 骨髄抑制

- Infusion reaction

コンパニオン診断薬の情報

HER2低発現又は超低発現の確認には、 以下の体外診断用医薬品又は医療機器が承認されている。

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出典

  1. 第一三共株式会社 エンハーツ®︎点滴静注用 電子添文 2025年8月改訂 第12版
  2. 第一三共株式会社 エンハーツ®︎点滴静注用 適正使用ガイド. 2025年8月改訂
  3. N Engl J Med. 2024;391(22):2110-2122.
最終更新日 : 2025年8月27日
執筆 : HOKUTO編集部 がん専門・指導薬剤師
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HOKUTO編集部
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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レジメン(乳腺)

がん薬物療法における治療計画をまとめたものです。

主要論文や適正使用ガイドをもとにした用量調整プロトコール、 有害事象対応をご紹介します。

なお、 本ツールは医師向けの教育用資料であり、 実臨床での使用は想定しておりません。 最新の添付文書やガイドラインを必ずご確認下さい。

また、 一般の方への情報提供ではないことを予めご了承ください。

ホルモン受容体陽性 / HER2陰性
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トリプルネガティブ
コンパニオン診断薬
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