本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません. 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください.
ポイント
- 「転倒して手をつき、 手関節が腫れている」 ときに最も疑う高齢者に多い骨折である.
- 現在最も頻用される分類は「AO分類」である
- 手術適応となり得る関節面の骨折評価が難しい場合、 CTで追加評価を行う
疫学
特に若年者(≦16歳)と中年女性(≧50歳)の二峰性に多くみられる.
- 小児:転倒など低エネルギーで発症. 若木骨折となることが多く、 多くは保存の適応.
- 青壮年:交通事故など高エネルギーで発症. 関節内骨折で, 手術治療となることが多い.
- 高齢者:最も多く、低エネルギーで生じる. 転倒して手を受傷することが多い (FOOSH)
参考:FOOSHで多い骨折
- 橈骨遠位端骨折
- 舟状骨骨折
- 月状骨骨折・脱臼
- 橈骨小頭骨折・頚部骨折
- 上腕骨顆上骨折(※小児)
- 肘関節脱臼(※成人)
- Monteggia骨折
- Galeazzi骨折
Fall on an outstretched handの略で「転倒し地面に手を伸ばしての受傷」のことを指す.
レントゲン評価
- レントゲンは手関節3方向 (正面、側面、斜位)
- 斜位の追加で舟状骨骨折も観察可能.
- 骨折線を認めたら, 下記4項目を確認.
- 手術適応の判断や予後の評価に有用.

①Radial Hight
- 橈骨遠位端長もしくはRadial Length (RL)
- 正常10~13mm
②Radial Inclination (RI)
③Ulnar Variance (UV)
- 尺骨変異もしくはradial shortening. 尺骨面の方が高い場合、ulnar plus varianceと表す.
- 正常1~2mm
④Palmar Tilt (PT)
- 橈骨遠位端掌側傾斜 ※Dorsal Tiltだとマイナスで表記する.
- 正常6~15˚
分類

- 現在最も使用されているのは「AO分類」で、その他、 Frykman、Melone、Cooney、Mayo、Ferenandez、斎藤分類などが知られている.
- 従来の分類では、 背側転位をColles骨折、 掌側転位をSmith骨折、 橈骨関節内骨折で手根骨と共に掌側へ転位を掌側Barton骨折、背側へ転位を背側Barton骨折とすることが多い.
- 手関節単純X線の正面•側面像で評価する.
- X線で不安定性骨折を示唆するのは著しい粉砕、 角状変形≧10°、 短縮≧5mm、 関節面転位≧2mmなどである.
- AO分類の詳細は、橈骨遠位端骨折診療ガイドラインの19ページを参照.
治療
注意事項
- 全ての骨折外傷で共通するが、神経損傷、 循環障害、 腱障害の有無を確認する.
- 手関節周囲であれば撓骨動脈、 尺骨動脈、 CRT (毛細血管再充満時間)) を確認する.
- 循環障害があれば、 整形外科医の到着を待たずに徒手整復に臨むべき.
- 上記の障害があるか、 骨折が関節面に及ぶ場合、手術適応となることが多いが、骨折に対する手術治療は一定の見解を得ていない
徒手整復法
- 肘関節屈曲位に保持し骨折部を両手で把持.
- 末梢骨片の背屈を強めるようのけぞらせる.
- 末梢へ牽引力を加えながら掌尺屈し(長軸を合わせる)、 骨折面を押し込むよう整復する.
コンサルトと手術療法
- 主流は掌側プレート固定も、骨折に対する手術療法は一定の見解を得ていない.
- 多少の変形治癒であれば、 それほど機能に影響しないとも言われている.
- 下記合併症のリスクがある場合は, コンサルト必須(EMCNA参照)
判断する専門医によっても意見が異なるため、 よほど転位が少ない症例以外は、 まずはクリニックではなく、 手術加療も可能な病院に紹介することが大事かと思います.
EMCNA*リコメンド
- Smith骨折:早期の整形外科専門医フォローアップを要する (手関節不安定性の合併率高)
- Barton骨折:早期手術加療のため、整形外科医に早期にコンサルトする (※必ずしも当日の必要はない)
- Colles骨折:整復術を良好に行い, かつ神経血管系の合併がなければ、整形外科専門医の受診に約10日間の猶予がある, 保存療法なら約4-6週間固定.
- 開放骨折:緊急でコンサルト
*Emergency Medicine Clinics of North America
最終更新:2024年3月24日
監修医師:聖路加国際病院救急部 清水真人