HIV診療に携わる医師が押さえておきたい近年の注目論文5選を、 HOKUTO編集部協力医師のコメントとともに紹介します。 抗レトロウイルス療法 (ART) の進展、 予防戦略、 薬剤耐性例への新規治療薬まで、 臨床の現場での判断に役立つ情報を厳選しました。
1. ART時代における、 HIV患者の死因の長期的変化
2. HIV感染者に対するピタバスタチンの一次予防効果
3. CAB注射 vs 経口PrEP : 1年後の有効性と安全性 (HPTN 083試験)
4. 多剤耐性HIVに対するレナカパビル : 長期的な有効性と安全性
5. 1,000 copies/mL未満で感染リスクは“ほぼゼロ” : U=Uの実証
👨⚕️抗レトロウイルス療法 (ART) の進展により、 HIVは慢性疾患として管理可能となりつつあります。 さらに曝露前予防 (PrEP) などの予防法により、 新規感染も効果的に抑制が可能となってきています。
ARTの普及によりHIV感染者の死亡率は低下しており、 高齢化に伴い死因は変化してきている。
対象は、 1996~2020年にARTを開始した16歳以上のHIV感染者18万9,301例。
主要評価項目は、 AIDS関連死などの死因別死亡率とした。
AIDS死の割合は49% (1996~1999年) から16% (2016~2020年) へ減少していた。
👨⚕️ARTにより、 AIDS関連死を含む死亡率は低下しています。 高齢化に伴う併存疾患の管理が重要です。
HIV感染者は心血管疾患 (CVD) のリスクが上昇することが報告されているが、 HIV感染者のCVDの一次予防に関するエビデンスは乏しい。
CVD発症が低~中リスクで40~75歳のART施行中のHIV感染者7,769例を対象に、ピタバスタチン4mg/日とプラセボを比較した。
主要評価項目は、 心血管イベント*の発生率であった。
ピタバスタチン群では、 プラセボ群と比較して主要心血管イベントの発生が有意に低下した (p=0.002)。
👨⚕️HIV感染者の心血管疾患の一次予防として、 リスクにかかわらず、 より積極的なスタチン投与の検討が必要となるかもしれません。
長期作用型カボテグラビル (CAB) の注射は、 既報で経口PrEP (TDF/FTC*) と比較しHIV感染予防効果が優れていることが示されている (HPTN 083試験) ¹⁾。
その後1年間における有効性・安全性の追跡結果が報告された。
本解析の対象は、 HPTN 083試験に参加した18歳以上のHIV未感染者のうち、 盲検解除後も追跡が行われた3,290例である。
主要評価項目は、 HIVの新規感染であった。
CAB群では、 盲検期・非盲検期のいずれにおいても、 経口PrEPと比較してHIV感染リスクが約65~70%低下した。
また、 CABを定期的に投与されていたにもかかわらず感染が確認された症例は2例であり、 いずれの症例にもインテグラーゼ阻害薬 (INSTI) に対する耐性が認められた。
👨⚕️CAB注射によるPrEPの高いHIV予防効果が長期的に持続される可能性を示しました。 一方で、 CAB投与中の感染はまれですが、 INSTI耐性出現のリスクはあります。
多剤耐性HIV感染者において、 既存のARTは治療選択肢が限られている。
レナカパビルは、 HIVカプシドに作用する新規の抗HIV薬であり、 長期作用型の特性を持つ。
多剤耐性HIV感染者36例を対象に、 レナカパビルを含む併用療法の52週後のウイルス抑制効果*と安全性を評価した。
レナカパビルを含む治療群では、 52週時点で83%がHIV RNA <50 copies/mLを達成した。
主な有害事象は注射部位反応であった。 重篤な有害事象は少なく、 レナカパビルは良好な忍容性を示した。
👨⚕️レナカパビルは、 既存のARTに耐性を示すHIV感染者に対して、 新たな作用機序と長期作用型の特性を持つ治療薬として期待されます。
HIVウイルス量が 「検出限界未満 (例 : <200 copies/mL) 」 であれば、 感染リスクは“ゼロ”とされる。 これはU=U (Undetectable = Untransmittable) の根拠となっている。
本論文は、 「1,000 copies/mL」 未満の低レベルウイルス血症での感染リスクを評価したレビューである。
2010年1月~22年11月に発表された8つの研究を対象に、 HIV血清不一致カップル*の感染リスクについて系統的レビューが実施された。
ウイルス量が200 copies/mL未満の場合、 3研究*でHIV感染例は報告されなかった。
一方、 ウイルス量が1,000 copies/mL未満の場合は2件の感染が疑われる報告があったものの、 いずれも因果関係は明確ではなかった。
👨⚕️HIV陽性者のウイルス量が1,000 copies/mL未満であれば、 性行為による感染リスクはほぼありませんでした。 ただし、 1,000 copies/mL以上では感染リスクは高く、 U=Uを更に支持しています。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
あなたは医師もしくは医療関係者ですか?
HOKUTOへようこそ。当サイトでは、医師の方を対象に株式会社HOKUTOの臨床支援コンテンツを提供しています。