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HOKUTO編集部

11時間前

【必修】造血幹細胞移植後のCMV管理戦略 : ECILの最新推奨

【必修】造血幹細胞移植後のCMV管理戦略 : ECILの最新推奨
サイトメガロウイルス (CMV) は、 同種造血幹細胞移植 (HCT) 後の患者における重要な死亡リスクの一つである。 日本でも新規抗CMV薬としてマリバビルが承認され、 臨床での活用が期待されている。 本稿では、 第10回欧州白血病感染症会議 (ECIL10) の推奨事項をもとに、 国内の実臨床で役立つCMV管理の最新知見を解説する。 新たな予防薬、 抵抗性・不応性CMV感染症への対応、 CAR-T細胞療法など新規治療を受ける患者におけるCMV管理を中心に取り上げる。 
Recommendations from the 10th European Conference on Infections in Leukaemia for the management of cytomegalovirus in patients after allogeneic haematopoietic cell transplantation and other T-cell-engaging therapies
▶︎Lancet Infect Dis. 2025:S1473-3099(25)00069-6.

本論文のKey messages

  • CMV抗体は原疾患診断時と移植直前に確認
  • CMV陽性HCTレシピエントには、 レテルモビル1次予防が推奨
  • マリバビルは耐性 / 難治性CMVに有効で、 ガンシクロビル・ホスカルネットより副作用が少ない
  • CAR-T細胞療法後のCMV再活性化にも注意が必要

CMV診断とモニタリング

CMVリスク評価

HCT施行患者およびドナーにおいて、 CMV血清学的状態の評価は必須である 。 特に、 輸血歴や免疫不全状態を考慮した正確なCMV既感染状態の把握が、 予防戦略選択に重要となる。

CMV陽性 (以下のいずれかに該当する場合)

 - 輸血前の血清抗体陽性
 - HCT前にCMV検出歴あり
 - 輸血前検体なしで、 HCT前の血清抗体陽性

CMV陰性

輸血前 (該当例) およびHCT前の血清抗体が陰性であり、 かつHCT前にCMVが未検出

CMV不明

HCT前評価で血清抗体が不確定であり、 診断時に陰性または輸血前検体が存在しない場合

モニタリング

HCT後のCMV管理においては、 定量的核酸増幅検査 (QNAT) によるCMV DNAモニタリングが推奨されている。 日本でもQNATは保険適用となっており、 一般的に使用されている。 一方、 抗原血症検査 (C10/C11法またはC7-HRP法) は、 QNATと比較して感度が劣る点に留意が必要である。

CMV感染症の予防

成人のCMV陽性HCTレシピエントにおいて、 CMV1次予防の第1選択薬としてレテルモビルが推奨される。 臨床的に意義のあるCMV感染症のリスク低下に加え、 全死亡率の低下も報告されている。 移植後早期 (可能であれば28日以内) に投与を開始し、 少なくとも移植後100日間の継続が推奨される。 高リスク患者に対しては、 移植後200日間までの投与が考慮される。

なお、 レテルモビルは治療ではなく予防薬であり、 治療目的では使用不可である。

レテルモビル・ブリップとは

レテルモビル予防中にみられるCMV DNAの一過性陽性 (blips) は、 感染や耐性を示すものではなく、 治療不要である。

この現象は、 レテルモビルが環状CMVゲノムの切断過程を阻害する薬理作用に起因し、 非カプシド化・断片化されたDNAが血中に一時的に検出されることで生じる。 CMV DNA量は血漿で1500 IU/mL、 全血で1万 IU/mLを超えないのが一般的であり、 ウイルス量が持続的に増加しない限り先制治療は推奨されない。

造血細胞移植学会ガイドラインとの差分

造血細胞移植学会ガイドライン : サイトメガロウイルス感染症 (第5版補訂版)²⁾ では、 CMV抗体陽性患者に対するレテルモビルの予防投与を推奨している。 一方で、 CMV再活性化や感染症の発症リスクが高い患者を中心に予防投与を検討すべきであるとも補足しており、 「全例」 への一律投与についてはコンセンサスが得られていない点を明確にし、 高リスク患者への重点的な対応が示唆されている。

抵抗性・不応性CMV感染症の管理

マリバビル

マリバビルは既存薬に対して抵抗性または不応性を示すCMV感染症・疾患に対して有効であり、 ガンシクロビルやホスカルネットと比較して重篤な副作用のリスクが低い。 ただし、 中枢神経系や眼内への移行性が乏しいため、 これらの部位のCMV感染症には推奨されない。

他の治療薬

ホスカルネットは中枢神経系や眼病変に有効な選択肢だが、 毒性には十分な注意が必要である。

CMV網膜炎にはcidofovir (国内未承認) も用いられる。

世界的には併用療法も選択肢となりうるが、 マリバビルとバルガンシクロビル (またはガンシクロビル) の併用は、 相互作用により後者の抗ウイルス効果を低下させる可能性があるため、 禁忌とされている。

遺伝子検査

薬剤耐性が疑われる場合には、 耐性変異の確認を目的とした遺伝子型検査が推奨される。 ただし、 日本国内においては保険診療での実施は認められていない。

新規治療法とCMV管理

CAR-T細胞療法

CAR-T細胞療法を受ける患者では、 CMV再活性化のリスクが認識されている。 CMV陽性例では、 リンパ球除去療法開始前のウイルス量測定が推奨され、 輸注後2~6週間のCMV DNA血症モニタリングが考慮される。

特にGrade 3–4のサイトカイン放出症候群や3日超のステロイド使用など高リスク因子を有する場合は、 より積極的なモニタリングが推奨される。

二重特異性抗体

この治療法に関連するCMV再活性化リスクに関するデータは限られているが、 特に長期投与や他の免疫抑制療法との併用時には慎重な対応が求められる。

CMV陽性患者では、 治療開始前のウイルス量測定に加え、 発熱時のCMV DNA検査の実施が考慮される。

まとめ

ECIL10はCMV管理の国際標準を示す。 新規薬剤導入が進む中、 本推奨は日本の実臨床でも重要な指針となる。 国内の検査体制や保険診療を踏まえ、 患者毎に最適な戦略を柔軟に選択・活用することが期待される。

出典

  1. Lancet Infect Dis. 2025:S1473-3099(25)00069-6.
  2. 造血細胞移植学会ガイドライン : ウイルス感染症の予防と治療、 サイトメガロウイルス感染症 (第5版補訂版)

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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