
2025年12月6~9日に開催された米国血液学会 (ASH 2025) において、 白血病 (CLL、 AML) における8つの注目演題について、 大阪国際がんセンター血液内科副部長の藤重夫先生にご解説いただきました。
試験概要 未治療の慢性リンパ性白血病 (CLL) 患者909例を対象に、 固定期間のBCL-2阻害薬ベネトクラクス+抗CD20抗体オビヌツズマブ併用 (VO群)、 固定期間のベネトクラクス+BTK阻害薬イブルチニブ併用 (VI群)、 およびイブルチニブ単剤の継続投与 (I群)を比較した第Ⅲ相CLL17試験。
観察期間中央値34.2ヵ月において、 主要評価項目である3年無増悪生存期間 (PFS) 率は、 VO群81.1%、 VI群79.4%、 I群81.0%であり、 I群に対するVO群 (HR 0.87) およびVI群 (HR 0.84) の非劣性が示された。 末梢血における微小残存病変 (uMRD) 達成率は、 VO群の73.3%、 VI群の47.2%に対し、 I群は0%であった。 安全性に関しては、 心障害 (13.9%、 23.8%、 34.6%) および2次発癌 (11.9%、 11.6%、 18.5%) の頻度は、 I群と比較して固定期間治療の両群で低かった。
なお同試験結果の詳細は、 N Engl J Med 2025年12月6日オンライン版に同時掲載された¹⁾。
🤦考察 CLL17試験はCLL治療における二大戦略である 「BTK阻害薬継続療法」 と 「BCL-2阻害薬ベースの固定期間療法」 を直接比較した初の第Ⅲ相試験であり、 極めて重要な報告である。 固定期間治療 (VO、 VI) が継続療法 (I) に対してPFSで非劣性を示したのみならず、 心毒性や2次発癌のリスクといった長期安全性の観点からも固定期間治療が優れており、 期間限定治療が初回治療の推奨となり得ることを示唆している。 特に、 VO群における高いuMRD達成率は、 深い寛解による無治療期間の延長が期待される。
試験概要 固定期間のイブルチニブ+ベネトクラクス (Ibr+Ven) 併用療法の初回治療効果を、 第Ⅱ相CAPTIVATE試験および第Ⅲ相GLOW試験のデータを用いて、 ゲノム変異別に評価した研究。
両試験において、 del(11q)、 トリソミー12、 del(13q)、 SF3B1、 NOTCH1、 ATM変異などの頻度は概ね類似しており、 CAPTIVATE試験ではdel(17p)やTP53異常を有する患者も含まれていた。
Ibr+Ven療法は、 多くのゲノムサブグループで高い奏効率と深い寛解を示し、 GLOW試験では、 標準治療であるクロラムブシル+抗CD20抗体オビヌツズマブに比べて高い完全寛解 (CR) 率を示した。 PFSと全生存期間 (OS) については大部分の遺伝子変異で治療効果に明確な差は見られなかったが、 未変異IGHV (uIGHV) やTP53異常を有する患者ではやや治療効果が劣る傾向が示唆された。
またBCOR/CCND2/NRAS/XPO1によるBCNXシグネチャーは、 固定期間群では予後への影響を示さなかった。
🤦考察 Ibr+Ven療法は固定期間で高い奏効率とuMRDを達成し、 遺伝子背景によらず広く一貫したベネフィットを示したことは本試験の重要点である。 同併用療法は古典的な化学免疫療法と比較して、 固定期間で治療を完遂できるレジメンとして、 初回治療の有力な候補となる。
試験概要 再発/難治性のCLL/SLL患者126例が登録された、 新規BTK分解薬bexobrutidegの第Ⅰ相試験 (NX-5948-301)である。
主な有害事象 (AE)は紫斑/打撲と好中球減少であり、 忍容性は良好であった。 効果評価可能な47例において、 全奏効率 (ORR) は83.0% (CR 2例、 部分奏効[PR] およびリンパ球増加を伴う部分奏効[PR-L] 36例) を達成した。 また重度の前治療歴がある患者、 ベースライン時のBTK変異保有例、 高リスク分子異常例においても、 迅速かつ持続的な奏効が得られた。
🤦考察 「BTK分解薬」 は最近報告され始めている、 新規作用機序で効果を発揮する薬剤であり、 既存のBTK阻害薬に抵抗性や不耐容を示す症例に対する新たな選択肢として期待される。 今後の長期的な奏効持続性と安全性データの蓄積が待たれる。
試験概要 未治療のCLL/SLL患者を対象に、 非共有結合型BTK阻害薬ピルトブルチニブと、 ベンダムスチン+抗CD20抗体リツキシマブ (BR) 療法を比較した第Ⅲ相BRUIN CLL-313試験。
ピルトブルチニブ群はBR群に比べてPFSを有意に改善し (HR 0.20、 p<0.0001)、 24ヵ月PFS率は93.4% (vs BR群70.7%) であった。 OSについてもピルトブルチニブ群で優位な傾向が見られた (HR 0.26、 p=0.0261)。 忍容性は良好で、 Grade 3以上のAEの発現頻度もピルトブルチニブ群で低かった (40.0% vs 67.4%)。
🤦考察 ピルトブルチニブは未治療CLL/SLLに対し、 従来の化学免疫療法であるBR療法と比較して高い有効性と安全性を持つことが実証された。 特に顕著なPFS改善と、 良好な忍容性を示したことから、 CLLにおける初回治療の新たな選択肢となる可能性がある。 今後は他剤との併用療法の可能性なども検討されていくと考えられる。
試験概要 1990~2024年に登録された急性骨髄性白血病 (AML) 患者1万7,908例を対象とした多国籍PETHEMA登録研究の結果が報告された。
OS中央値は、 1990~2006年の9.3ヵ月から、 2017~24年には12.8ヵ月へと改善した。 この間、 診断時の年齢中央値は62歳から65歳へと上昇していた。 治療パターンの変遷として、 強力化学療法の使用は80%から67%へ低下した一方で、 ベネトクラクス+低メチル化剤 (HMA) 併用療法などの非強力療法が0%から23%へと増加した。 また、 同種造血幹細胞移植の実施率も8%から17%へ上昇した。
ほとんどのサブグループでOSの改善が見られたが、 ECOG PS≧2以上、 2次性AML、 非強力療法または支持療法のみを受けた患者群では、 有意な改善は認められなかった。
🤦考察 本研究から、 過去30年間でAMLの治療成績が着実に改善していることが示され、 非常に大規模な実臨床データとして治療戦略の変遷と効果を示す貴重な知見である。
この背景には、 ベネトクラクス併用療法などの新規レジメンの登場や移植適応の拡大が寄与していると考えられる。 しかし、 高リスク群における改善はいまだ限定的であり、 これらの患者に対するさらなる新規治療開発が依然として重要な課題である。
試験概要 新規診断で強力化学療法に適格とされる 「Fit」 な成人AML172例を対象に、 低メチル化剤アザシチジン+ベネトクラクス併用療法 (AZA+VEN) と、 従来導入化学療法 (IC) を比較した第Ⅱ相試験。
AZA+VEN群はIC群と比較してORRが有意に高く (88% vs 62%、 p<0.0001)、 複合CR率も優れていた (81% vs 55%、 p<0.0006)。 主要評価項目である1年無イベント生存 (EFS) 率もAZA+VEN群で有意に良好であった (53% vs 36%、 HR 0.57、 p=0.0022)。
また、 QOLの改善、 症状負担の軽減に加え、 ICU使用率 (9.6% vs 0%、 p=0.003) や初回入院日数 (36日 vs 15日、 p<0.001) など、 医療資源利用の観点でもaza-ven群が優れていた。
🤦考察 「Fit」 なAML患者に対しても、 AZA+VEN療法が従来の化学療法と比較してEFS、 QOL、 医療資源利用の面で優れているという結果は、 従来の治療戦略を再考させる重要な知見である。 外来治療の拡大や患者負担の軽減が可能となるため、 今後のAML初回治療のパラダイムシフトにつながる可能性がある。 今後は長期的なOSや移植成績への影響の検証、 遺伝子変異パターンに基づいた個別化医療 (精密医療) の確立が重要になると予想される。
試験概要 NPM1変異またはKMT2A再構成を有する新規診断AML患者を対象に、 3剤全経口レジメン (メニン阻害薬revumenib、 経口低メチル化薬decitabine/cedazuridine、 ベネトクラクス) を検証した第Ⅱ相SAVE試験。
21例の予備解析において、 ORR (完全寛解+骨髄学的完全寛解) は86%に達し、 CR率は81%であった。 さらに、 評価可能な全患者 (100%) がフローサイトメトリーによるMRD陰性を達成した。
🤦考察 高齢者を含む患者に対し、 すべて経口薬による治療で極めて高い完全奏効率とMRD陰性率を実現した画期的な試験であり、 3剤全経口レジメンは入院不要かつ利便性の高い治療として期待が大きい。 また、 NPM1変異やKMT2A再構成という特定の分子異常を標的とした、 いわゆる 「精密医療」 のモデルケースとも言える結果であり、 今後の長期成績の評価が待たれる。
試験概要 新規診断のFLT3変異陽性AML30例を対象にアザシチジン+ベネトクラクス+FLT3阻害薬ギルテリチニブ併用療法に関する試験の長期追跡結果 (追跡期間中央値41.5ヵ月)。
無再発生存期間 (RFS) 中央値は23.4ヵ月 (3年RFS率43%)、 OS中央値は29.7ヵ月 (3年OS率46%) であった。 またサブグループ解析では、 FLT3-TKD変異を有する患者において極めて良好な成績 (3年RFS率・OS率ともに75%) を示し、 FLT3-ITD変異患者 (3年RFS 32%、 OS 36%) と比較して優れていた。 一方で、 RAS経路変異例は予後不良の傾向が見られた。
🤦考察 AZA+VEN療法へのFLT3阻害薬の上乗せにより、 標準的なAZA+VEN療法と比較して優れた成績が期待できることが示された。 今後、 無作為化比較試験による検証が期待される。 一方で、 RAS経路変異による耐性への対策や、 長期的な奏効の持続性および耐性機序の解明が今後の課題である。
¹⁾ N Engl J Med.2025年12月6日オンライン版

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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