
がん診療の現場では、 家族から 「本人には、 がんのことを伝えないでほしい」 とお願いされることがあります。 その背景にはどのような思いがあり、 医療者はどのように接したら良いでしょうか。 「がん診療の羅針盤」 第26回は虎の門病院の山口雄先生から「家族から『本人に病状を伝えないで」 と言われたら』です! ぜひご一読ください。

家族から 「本人には、 がんのことを伝えないでほしい」 とお願いされる背景には以下のような思いがあります。
💭 「本人がショックを受けるのではないか」
💭 「希望を失ってしまうのではないか」
💭 「家族として本人を守りたい」
しかし、 「Shared Decision Making」 を実践するには、 本人への病状説明は避けて通れません。 治療方針を一緒に考えるためには、 病名や病状を本人が理解していることが前提になるからです。 とはいえ 「真実はしっかりと伝えるべきです」 と強く言い切ると、 家族との信頼関係が崩れかねません。 まずは、 家族の気持ちに寄り添う言葉掛けから始めましょう。
👨⚕️ 「心配な気持ちはよくわかります」
「たしかに、 ご家族としては心配ですよね」
そのうえで、 例えば以下のような言葉で、 なぜ伝えてほしくないのかを尋ねてみましょう。
👨⚕️ 「どんなことが一番心配ですか?」
「どんな状況になるのが怖いと感じますか?」
理由を聞くことで、 家族が抱える本当の懸念 ( 「落ち込む本人をどう支えればいいかわからない」 など) が見えてきます。
家族の気持ちを理解したうえで、 「伝えない」 ことによる以下のようなデメリットを説明します。

こうした点を落ち着いて説明すると、 多くの家族は理解を示してくれます。
そして、 家族が果たせる役割をしっかり伝えることも大切です。
👨⚕️ 「本当の優しさとは、 伝えないことではなく、 伝えた後に支え続けることです」
「患者さんを支える過程では、 家族にしかできない大切な役割があります」
また、 本人に病状を説明する際は、 家族に同席してもらいましょう。 あらかじめ 「どこまで伝えるか」 を家族と確認しておくと安心です。
例えば、
といった柔軟な方針を示すと、 家族の不安がやわらぐことがあります。
それでも 「どうしても伝えないでほしい」 と言われた場合は、 焦らず時間をかけましょう。
👨⚕️ 「では、 本人がどの程度知りたいと思っているか、 一緒に聞いてみましょうか」
という提案はとても有効かもしれません。 実際には、 本人もある程度病状を感じ取っており、 家族の心配が杞憂に終わることも少なくありません。
また、 本人へ伝えない限りできないことは明確に示しましょう。 例えば抗がん薬治療を行う場合、 病名や副作用の説明が不可欠であり、 本人に説明せずには開始できません。
さらに、 完全に秘密にするのは現実的に難しいことも伝えましょう。 他職種スタッフの言葉、 説明書類、 医師の言葉などから、 事実が本人に伝わる可能性があるからです。
👨⚕️ 「私たちも最大限配慮しますが、 100%秘密にできるとは限りません」
と最初に一言添えておくと、 後のトラブルを防げます。
丁寧に説明すれば、 ほとんどの家族は最終的には納得されます。 このやり取りを通して家族との信頼関係が深まり、 患者さんの治療もよりスムーズに進むこともあります。 患者さんを支えるためには、 家族への思いやりも欠かせません。

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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