HIV診療に携わる医師が押さえておきたい最新論文3選を、 HOKUTO編集部協力医師のコメントとともに紹介します。 妊娠・授乳期の治療と予防戦略から次世代mRNAワクチン開発まで、 臨床判断をアップデートする最新エビデンスを厳選しました。
1. ART開始時期とHIV陽性妊婦の周産期アウトカムの関連性
2. 授乳中女性に対するdapivirine膣リングと経口PrEPの安全性比較
3. HIVワクチン開発 : 広域中和抗体 (bnAb) 誘導mRNAワクチンの初期臨床評価
抗レトロウイルス療法 (ART) の普及により、 HIV感染者の母子感染リスクは大幅に低下している。
そこで、 ARTの開始時期が周産期に与える影響について評価した。
1980~2023年に発表された研究をデータベースで検索し、 妊娠前または出産時にARTを開始したHIV感染妊婦と、 HIV非感染妊婦またはART未治療のHIV陽性妊婦の比較した。
主要評価項目は早産 (PTB)、 低出生体重 (LBW) などであった。
妊娠前からARTを開始していたHIV感染妊婦ではHIV非感染妊婦と比較して、 PTB (RR* 1.55、 95%CI 1.27-1.90)、 LBW (RR 2.19、 95%CI 1.32-3.63) などのリスク増加が認められた。
出産前にARTを開始したHIV感染妊婦では、 HIV非感染妊婦と比較して、 PTB (RR 1.35、 95%CI 1.15-1.58)、 LBW (RR 2.16、 95%CI 1.39-3.34) などのリスク増加が認められた。
👨⚕️ARTによる母子感染予防と母体健康維持の重要性は揺るぎないものの、 周産期合併症リスクが高まる可能性があり、 産科的管理の強化が求められる。
授乳中のHIV未感染女性を対象とした曝露前予防 (PrEP) データは限られている。 特に、 dapivirine膣リング (DVR) は低用量かつ局所投与型で、 乳児への薬剤移行の懸念が少ないことが期待されている。
生後6~12週の乳児を授乳中のHIV陰性女性197例を、 DVR装着群148例と経口PrEP(FTC/TDF)*群49例に無作為に割り付けて比較した。
主要評価項目は、 母子における安全性および薬物動態とした。
重篤な有害事象 (SAE)
母体ではDVR群の1% (2/148例) で報告された。 PrEP群では報告がなかった。
乳児ではDVR群の3% (4/148例) で報告された。 PrEP群では母体と同様に報告がなかった。
Grade 3以上の有害事象
母体ではDVR群 の2% (3/148例)、 PrEP群の 4%(2/49例) で報告された。
乳児ではDVR群の7% (10/148例)、 PrEP群の2% (1/49例) で報告された。
母乳・乳児への薬物曝露
DVR群では、 乳児血漿でのdapivirine濃度はほとんどが定量下限未満であった。 PrEP群でも、 乳児へのテノホビル曝露は検出されなかった。
なお、 HIV感染例は両群ともに認められなかった。
👨⚕️授乳期の女性において、 DVR群と経口PrEP群はいずれも安全性に大きな問題はなく、 乳児への薬物移行も最小限であった。 DVRは低曝露かつ継続的に作用するPrEPとして、 授乳期の選択肢の一つとして有望である。
HIVに対する広域中和抗体 (bnAb) は、 多様なウイルス株を中和できる能力を持つことから、 ワクチン開発の鍵とされている。
本研究では、 bnAb誘導のための“germline targeting”戦略*に基づき、 mRNAナノ粒子でコードされた免疫原を用いた初回免疫および異種ブースト免疫によるbnAb前駆細胞の誘導と成熟をヒトで評価した。
IAVI G002試験 (米国)
60例のHIV陰性成人を対象とした、 第I相無作為化オープンラベル試験。 初回免疫 (eOD-GT8 60mer mRNA-LNP) と異種ブースト (core-g28v2 60mer mRNA-LNP) を組み合わせて検討した。
IAVI G003試験 (ルワンダ・南アフリカ)
18例のHIV陰性成人を対象とした、 第I相無作為化オープンラベル試験。 eOD-GT8 60mer mRNA-LNPを2回接種し、 安全性と免疫原性を評価した。
プライミング免疫
eOD-GT8 60mer mRNAワクチンは、 米国およびアフリカの被験者において、 VRC01クラスbnAb前駆細胞を高い頻度かつ強力に誘導した 。
ブースト免疫
異種抗原でブーストした群 (eOD-core) は、 同種抗原でブーストした群と比較して、 標的への結合親和性の向上、 一部の改変HIVウイルスに対する中和活性の獲得など質的成熟が促進された。
安全性
ワクチンはおおむね良好な忍容性を示した。 ただし、 IAVI-G002試験では、 被験者の10%に6週間以上持続する慢性的な蕁麻疹が認められた。
👨⚕️初期段階ながら、 この研究は広域中和抗体誘導というHIVワクチン開発の可能性を示した。 さらなるブースターや追加段階を経て十分な抗体成熟・量産が達成できれば、 将来的に広範囲のHIV株に対抗し得る予防ワクチン開発につながる重要な研究となる。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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