こんにちは、 Dr.Genjohです。 財務省の資料から我々保険医の将来を占う短期集中シリーズ 「医師の黄昏~氷河期の到来~」。 第8回では、 保険料削減のために淘汰される存在について考察します。
財務省の資料 「社会保障」 はコチラ。
医療費の増大が問題となっている昨今ですが、 実は都道府県ごとに必要とする医療費には大きな差があります。
【図表1】左側をご覧ください。 一人当たり医療費(年齢調整後)の全国平均は61.4万円/年ですが、 最も高い佐賀県では+11.5万円/年、 最も低い新潟県では-9.2万円/年です。 約20万円/年もの差があります。
また、 入院医療費と病床数には相関関係があり、 人口当たりの病床数が多いほど一人当たり入院医療費が増大する傾向にあります。
【図表1】の右側を見ると、 1,000人当たり病床数は最多の高知県で23.3床に対して、 最小の神奈川県では8.0床でなんと2.9倍違います。
一人当たり入院医療費(年齢調整後)は最多の鹿児島県で39.8万円/年に対して、 最小の岩手県では23.4万円/年です。
つまり、 佐賀県や鹿児島県の在住者は、 新潟県や岩手県の在住者に比べて1.5~1.7倍の医療費を費やして懇ろに医療を受けられるというわけです。
背景には、 人口に比して多すぎる入院病床数があります。
病床数が少ない神奈川県ではより安価な外来治療の適応とされる症例が、 病床数が多い高知県ではベッドの稼働率を高めるために高価な入院治療の適応とされているわけです。
国民健康保険の財源のほとんどは公費や国庫からの補助金で賄われており、 そこに占める都道府県繰入金の割合は9%とごくわずかです【図表2】。
ただ、 現在はどの都道府県も使った医療費の分だけ公金から補填されることになっており、 医療費は使いたい放題と言っても過言ではありません。 他の都道府県よりも1.7倍も多い一人当たり医療費を使ったところで、 何も問題ないわけです。
「これではいけない」 ということで、 今後は年齢調整等では合理的に説明できない地域差には普通調整交付金を充てないことで、 地域差を是正していくようです。
つまり、 国は 「過剰に医療費を使っている都道府県はどうぞご自由に。 今後、 国は赤字の補填をしないので、 使い過ぎた医療費は自分で責任を負ってね」 というスタンスとなります。
75歳以上の後期高齢者医療において、 保険の支払者は地方自治体ではありません。 全市町村が加入する後期高齢者医療広域連合が支払者です。
広域連合は保険医療費を全国ひとまとめで管理してしまうため、 どの市町村で過剰医療が発生しているか不明瞭になってしまい、 管理が甘くなる懸念がありました。
今後は後期高齢者制度において、 「各市町村を取りまとめる財政運営の主体を都道府県とすべき」 と提言されています【図表3】。
つまり、 「今後は各市町村の後期高齢者医療費についても、 都道府県に管理させるよ。 子飼いの市町村が過剰医療したら、 都道府県が責任持てよ」 というわけです。
財務省は2段階の目標を設定しています。
1) 2030年度までに納付金ベースの統一、 つまり各市町村の使った医療費について定額化し補填をしないこと。
2) 2036年度までに完全統一、 つまり同じ所得水準、 同じ世帯構成であれば市町村を問わず同じ保険料とすること。
最終的に 「各都道府県単位で、 どこに住んでいても同じ保険料の納付、 同じ保健医療の給付を受けられる真に公平な世界」 を目指しているわけです。
「真に公平な世界」
良い響きですよね。 響きは。
財務省は都道府県単位でも、 各市町村単位でも過剰な医療費を使わないように強く求めてきており、 その管理責任は各都道府県が負うことになります。
一番影響を受けるのは誰でしょうか。
諸論あると思いますが、 私が考えるに、 都道府県や市町村が巨額の予算を編成し、 赤字を補填することで成り立っている多くの公立病院ではないでしょうか。
その予算が絞られ始めた時、 公立病院で起こり始めるコストカットの対象に医師の給与が含まれないとは言えません。
冒頭の【図表1】のグラフをもう一度ご覧ください。
ことさら医療費過剰の地方があることにお気づきでしょう…。
今回は保険料削減のために淘汰される存在について考察しました。
次回は高額医療費についてお話します。
Xアカウント : @DrGenjoh
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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