
こんにちは、 Dr.Genjohです。 診療報酬改定の議論が大詰めを迎えています。 そこで新シリーズ 「続・医師の黄昏」 では、 医師の待遇が今後どうなっていくのかを考察していきます。
シリーズでは、 診療報酬改定の議論の叩き台となる財務省資料のアップデート版 「社会保障①」 を読み解きます。 第1回のテーマは 「日本経済の停滞の原因は医療・介護にあるのか」。
財務省の資料は 「社会保障費をいかに削減するか」 を目的に作成されています。 社会保障費の削減に正当性を持たせるための資料となっており、 「医療費増大もやむなし」 とする主張などは明確に省かれています。 一定のバイアスがかけられていることをご了解の上、 お読みください。

【グラフ1】を見ると、 勤労者世帯の税・社会保険料負担率は平成初め (1988年) に比べて5pt強増加しており、 その多くは社会保険料負担の増加が占めています。
これは確かに事実ですが、 明確にframing effectを狙って作成されており、 負担率が極端に上昇しているような印象を与えます。 少子高齢化が進む中で、 社会保険料負担率がわずか5pt強の伸びに過ぎないことは、 むしろコスト増を必死に抑制して得られた成果ではないか、 と筆者は考えます。

【グラフ2】は、 財務省が別部門で公表している反証資料です。 国民負担率の国際比較では、 日本はOECD加盟36か国中24位とむしろ低い位置にあります。

社会保険料負担率が諸外国に比して低いにも関わらず、 日本が社会保険料負担に苦しんでいるのはなぜでしょう。 簡単です。 日本の産業振興が停滞し、 雇用者報酬の伸びが保険料負担の伸びについてこられなかっただけの話です【グラフ3】。
今、 政府が真に行うべきは、 医療介護に圧をかけることではありません。 抑圧されてきた雇用者報酬が正しく成長できるよう、 産業の振興に努めることです。

【グラフ4】は、 「家計の可処分所得は増加しているが、 年金などの社会保障給付の増加分を差し引くと相殺されている」 「現役世代の保険料負担を抑制していく必要がある」 との主張を支えるデータです。
確かにその通りです。 しかし、 年金や医療の給付が不足し、 困窮した高齢者を見捨てることが現代の日本において可能でしょうか。 高齢者に身寄りがあればその子の世代が、 身寄りがなければ生活保護など公的制度がコストを負担する必要があり、 財源のすり替えにしかなりません (その経過で、 財源を枯渇させられた医療介護は死滅します)。
【グラフ4】では直接的な金銭面しか触れていませんが、 医療介護の身体的負担はさらに重大な問題となります。 今の医療介護システムが崩壊した時、 高齢者の医療介護はその子世代が個別かつ非効率的な状態で引き受ける必要があります。 医療介護のための離職に伴う損失は、 目先の金銭だけに注目した【グラフ4】からは一切評価出来ません。

【グラフ5】は、 保健衛生・社会事業の付加価値増加額は増大しているが、 医療従事者の数は増え続けている、 とのデータです。

【グラフ6】の左側は、 保健衛生・社会事業における労働者数は増加する一方、 一人あたりの労働効率は全く伸びていないことを問題視しています。 右側は、 診療費の物価上昇が、 世間一般の物価上昇に比して伸びが大きすぎることとしています。
これらについて、 高齢化率が上昇する時代において、 医療従事者の増加は必然でしょう。 ただ、 一人あたりの労働効率の向上は急務であると考えます。
医療のDX化は明確にそれを推し進めるでしょう。 また、 いわゆる小児科などの非採算部門をカットするなどの短絡的な対応ではなく、 真に生産性の低い、 暇を持て余しているような部分の効率化は必須となるだろうと考えます。
さらに診療代の物価高騰も問題であると考えます。 生命の価値を一側面から断じることは極めて困難ですが、 少なくとも高額医療の適応に関しては本当にその治療が十分なアウトカムをもたらすか否かをよく吟味する必要があるでしょう。 治療適応でないと判断された場合に、 それを適応しないことを可能とする法整備も同時に必要となると考えます。

Xアカウント : @DrGenjoh

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
あなたは医師もしくは医療関係者ですか?
HOKUTOへようこそ。当サイトでは、医師の方を対象に株式会社HOKUTOの臨床支援コンテンツを提供しています。