広島大学病院 脳神経内科の音成 秀一郎先生による連載 「脳波クイズ ER/ICU脳波-意識障害編-」 です。 第4回は、けいれんを繰り返す若年女性患者の症例です。
自宅で倒れ痙攣発作が続いているとのことで、 家族が救急要請。 救急隊到着時、 発作はまだ持続しており、 酸素投与を開始し搬送された。 ERにてジアゼパムを静注し、 発作はおさまった。 バイタルサインに介入するものはないが意識障害が遷延しており、 経過観察のため緊急入院した。 なお、 同様の痙攣発作のイベントは1週間前にもあり、 今後は脳神経内科で精査を受ける予約を取っていた。 血液検査、 頭部CT、 髄液検査に特記すべき異常はなかった。
入院翌日、 朝から覚醒できており疎通は取れたものの、 午後になると、 ベッド上で反応が乏しくなっているのを看護師が発⾒した。 バイタルサインに異常はなかったものの、 ⼿⾜は震えており、 時に激しく動かし後⼸反張になった。 意識障害が30分以上も持続したため、 緊急で脳波検査を実施した。 検査中にも同様の発作が出現し、 呼びかけても閉眼したまま反応はなく、 手足を激しく動かし、 姿勢は後弓反張だった。 ジアゼパムを投与すると症状は消失し、 そのまま入眠した。 脳MRIでは明らかな異常はなかった。
1. てんかん
2. 自己免疫性脳炎
3. 代謝性脳症
4. 心因性非てんかん発作
「繰り返すけいれん発作」、 「若年女性」 が特徴的なこの症例、 皆さんであればどのように脳波を読み解きますか?
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▼「意識が保たれている」を読み解く
呼びかけに反応はなく激しい発作症状を呈しているため、 真の意識障害があるようにも思われますが、 この症例の脳波を正しく読むことができれば、 心因性の病態を疑うことができます。 なぜなら、 本例の脳波では 「意識が保たれている」 ということを読み解くことができるからです。
激しく痙攣のような動きを呈して、 呼びかけに応答がなければ、 意識障害があるように見えるとは思いますが、 実は同時記録の脳波検査では覚醒時の脳波所見が出ており解離があります。 つまり心因性の発作と判断できるのです。
▼DSAでアルファ波が観察される : 覚醒
赤枠で囲っているトレンドグラフに注目して見てください。 この表示はDSA (density spectrum assay) と呼ばれるもので、 脳波活動の周波数帯域別のトレンドグラフのようなものです。 具体的には、 縦軸が周波数で横軸が時間となっているパワースペクトラムなのですが、 脳波検査中の各時間帯において、 どの周波数が活発かを可視化しています。
では、 この症例で 「発作が始まったタイミング」 でのDSAをチェックしてみましょう。 そうすると、 下段のように9-10Hz帯域の活動が記録されていることが分かります。 この9-10Hzというのはアルファ波といって、 成人の生理的な覚醒時の背景活動の一つです。 もし本当に意識を失うような発作が起こっているのであれば、 アルファ波のような生理的な脳内の背景活動は抑制されていなければなりません。
▼発作は心因性と判断できる
本例の脳波のようにアルファ波が観察されているのであれば患者は覚醒していることを示唆しますので、 発作は心因性と判断できるのです¹⁾。
脳波では正常な背景活動が持続しているということは、 「見えている意識障害」 は真のものではない、 すなわち本例は非てんかん性心因性発作 (PNES) と判断されます。
<出典>
1) 音成秀一郎 他 著. 脳波判読オープンキャンパス 誰でも学べる7STEP. 2021. 診断と治療社.
はじめての脳波トリアージ
2ステップで意識障害に強くなる
Antaa Slide Award 2021を受賞した著者が、 背景活動×てんかん性の所見で脳波を切り分け、 意識障害の鑑別を最速化する鑑別のコツを伝授。 ICUでの強力な武器を身につけて、 目指せ!デキるレジデント!
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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