神経内分泌腫瘍 (NET) は、 mTOR経路やVEGFに関する遺伝子異常を特徴とする悪性腫瘍であり、 これまで分子標的薬やソマトスタチンアナログを中心に治療開発が進められてきた。 2010年代後半以降、 ソマトスタチン受容体を標的とするペプチド受容体放射性核種療法 (PRRT) の有効性が報告され、 現在は実臨床における治療選択肢の一つとなっている。 本稿では、 PRRTの有効性と安全性について、 現時点の知見に基づき概説する。
PRRTは、 ソマトスタチン受容体に結合して腫瘍細胞内に取り込まれ、 放射線による細胞障害を介して抗腫瘍効果を示す治療法である。 神経内分泌腫瘍におけるPRRTの有効性と安全性を検証した研究が、 NETTER-1試験¹⁾とNETTER-2試験²⁾である。
NETTER-1試験は、 中腸原発の切除不能な進行神経内分泌腫瘍 (G1またはG2) の既治療例を対象に、ルテチウムオキソドトレオチド (¹⁷⁷Lu-Dotatate [ルタテラ®]) +オクトレオチドLAR (30mg/回) の併用療法 (PRRT群) と、 オクトレオチドLAR (60mg/回) 単独療法を直接比較した第III相無作為化比較試験である。 主要評価項目は無増悪生存期間 (PFS)、 副次評価項目には奏効割合、 全生存期間 (OS)、 安全性が設定された。
本試験では229例が無作為に割り付けられ、 PRRT群に116例、 オクトレオチド群に113例が割り付けられた。 登録患者の背景は、 年齢、 原発部位、 ソマトスタチン受容体シンチグラフィーの結果などを含め、 両群でバランスが取れていた。
主要評価項目である20ヵ月時点のPFS割合は、 PRRT群で65.2%、 オクトレオチド群で10.8%となり、 PRRT群の優越性が示された (ハザード比 [HR] 0.21、 95%CI 0.13–0.33)。 サブグループ解析においても、 グレード、 年齢、 性別などすべての項目でPRRT群が良好な結果を示した。
奏効割合は18% vs 3%と、 PRRT群で有意な改善が認められた (p<0.001)。 OSについては、 PRRT群で良好な傾向 (p=0.004) を示したが、 事前に規定された有意水準 (p=0.000085) には達しなかった。 最終報告では、 OS中央値はPRRT群48.0ヵ月、 オクトレオチド群36.3ヵ月 (HR 0.84、 95%CI 0.60–1.17) と、 両群で有意差はなかったもののPRRT群で良好な傾向が認められた³⁾。
NETTER-1試験における主な有害事象 (PRRT群、 111例) の発現は以下のとおり。
- 悪心 58.6%
- 嘔吐 46.8%
- 疲労 39.6%
- 下痢 28.8%
- 血小板減少症 25.2%
- リンパ球減少症 18.0%
- 食欲不振 18.0%
- 貧血 14.4%
- 脱毛症 10.8%
- 白血球減少 9.9%
NETTER-2試験は、 消化器原発の切除不能な進行神経内分泌腫瘍 (G2またはG3) の初回治療例を対象に、 ¹⁷⁷Lu-Dotatate+オクトレオチドLAR (30mg/回) 併用療法と、 オクトレオチドLAR (60mg/回) 単独療法を直接比較した第III相無作為化比較試験である。 主要評価項目はPFSとされ、 奏効割合や安全性についても検討された。
本試験では226例が無作為に割り付けられ、 PRRT群に151例、 オクトレオチド群に75例が2:1で割り付けられた。 登録患者の背景は年齢、 原発臓器、 グレードを含めて両群でバランスが取れていた。
PFS中央値は、 PRRT群で22.8ヵ月、 オクトレオチド群で8.5ヵ月となり、 PRRT群の優越性が示された (HR 0.28、 95%CI 0.18–0.42)。 サブグループ解析でも、 年齢、 人種、 原発臓器、 グレードなどすべての項目でPRRT群が良好な結果を示した。 奏効割合は43.0% vs 9.3%と、 PRRT群で有意に高かった (p<0.0001)。
NETTER-2試験における主な有害事象 (PRRT群、 147例) の発現は以下のとおり。
- 悪心 27.2%
- 下痢 25.9%
- 貧血・疲労 各19.7%
- 血小板減少症 17.0%
- 脱毛症 15.0%
- 嘔吐 14.3%
- 高血糖 13.6%
- 食欲不振 12.9%
- 白血球減少 12.9%
- リンパ球減少 10.9%
- AST・ALT上昇 各10.9%
PRRTである¹⁷⁷Lu-Dotatateは、 「ソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍」 を効能または効果として国内で承認されている。 投与は8週毎に最大4コースまでとされ、 終了後はソマトスタチンアナログ単独での治療が継続される。
PRRTは腎機能障害を引き起こす可能性があるため、 腎毒性を予防する目的で、 ¹⁷⁷Lu-Dotatateの投与開始30分前からL-リシン塩酸塩およびL-アルギニン塩酸塩の点滴を実施する。 また、 悪心・嘔吐の発現頻度を考慮し、 制吐薬の併用も投与前に検討される。
投与後は体外に放射線を放出するため、 法定基準で定められた放射線量を下回るまで、 放射線を適切に管理できる病室に滞在する必要がある。 滞在期間は通常1~2日程度である。 放射性物質は主に尿中に排泄されるため、 排尿時には座位で行い、 蓋を閉めて2回流すなどの曝露対策を行う。 また、 排尿を促すために水分摂取も励行する。
退院後も一定期間は日常生活上の注意が必要である。 投与後3日間は、 トイレ (座位・2回流し)、 入浴 (家族の最後に入り、 浴槽を洗浄)、 洗濯 (家族とは別に洗う) において曝露対策を実施する。 また、 血液・排泄物・嘔吐物にはゴム手袋を使用し直接触れないようにする。 さらに投与後1週間は、 家族とは少なくとも1m、 長時間同じ空間で過ごす場合は2mの距離を保ち、 公共の場への外出は控える。
¹⁷⁷Lu-Dotatateによる二次癌の発生頻度は低いものの、報告例が存在する。 NETTER-1試験では、 PRRT群の1例で、 単クローン性ガンマグロブリン血症 (MGUS) を背景に骨髄異形成症候群 (MDS) を発症した症例が認められ、 NETTER-2試験でもMDS発症例が1例報告されている。 これらを踏まえ、 事前に患者へ十分な説明を行う必要がある。
2件の第III相試験の結果を踏まえ、 神経内分泌腫瘍に対する有効性が証明されたPRRTは、 現在では神経内分泌腫瘍G2およびG3における初回標準治療の一つとして位置付けられている。 特に、 予後不良とされるNET G3に対して、 無作為化比較試験で有効性が示された初の治療であり、 実臨床における治療効果が期待される。
ただし、 PRRTの適応判断 (ソマトスタチン受容体陽性例) や治療の実施は一部の専門施設に限られているため、 治療へのアクセスは今後の課題となる。
今回はPRRTについて概説した。 次回は、 本年1月の米国臨床腫瘍学会・消化器がんシンポジウム (ASCO-GI 2025) で報告され、 新たな治療選択肢として確立したエベロリムスとランレオチドの併用療法について解説する。
▼ 神経内分泌腫瘍のレジメン
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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