2025年5月30日、 『頭頸部癌診療ガイドライン2025年版』が発刊されました。 頭頸部癌においても、 免疫チェックポイント阻害薬やチロシンキナーゼ阻害薬の開発が進み、 化学療法との併用を含めた多様な治療戦略が臨床に導入されています。 第3回となる本稿では、 白金製剤抵抗性症例に対する治療戦略について、 主要試験のエビデンスをもとに、 実臨床での適用ポイントや注意点を専門医に解説いただき、 日常診療に役立つ知見をわかりやすくお届けします。
専門 : 腫瘍内科 (骨軟部腫瘍、 頭頸部腫瘍、 原発不明癌、 希少癌、 その他癌薬物療法全般)
頭頸部癌の全身化学療法において、 白金製剤 (シスプラチンまたはカルボプラチン) は現在も主要な治療薬として位置付けられている。 そのため、 白金製剤抵抗性症例に対する治療戦略は、 後方ラインの治療を考える上で重要である。
頭頸部癌においては、 「前治療での白金製剤の最終投与から病勢進行または再発までの期間が6か月以内」 であることを白金製剤抵抗性とするのが一般的である¹⁾。 ただし、 この定義は主に近年の臨床試験における組み入れ基準に基づいており、 小細胞肺癌や卵巣癌のように明確な予後データに基づいて定義されたものではない点には留意が必要である。
白金製剤抵抗性の頭頸部扁平上皮癌に対しては、 免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブの有効性が第Ⅲ相無作為化比較試験CheckMate 141²⁾で示されており、 日本においても本試験結果に基づいて承認されている。
局所進行例に対しては、 放射線化学療法や導入化学療法を含む集学的治療において白金製剤が中心的に用いられている。 そのため、 治療完遂後早期 (6ヵ月以内) に遠隔転移をきたした症例においては、 ニボルマブが有力な治療選択肢となる。
なお、 CheckMate 141試験のサブ解析では、 抗EGFR抗体 (セツキシマブ) の使用歴の有無がニボルマブの有効性に影響しないことも報告されている³⁾。
もう一つの選択肢として、 パクリタキセル (PTX) +セツキシマブ (Cmab) 併用療法がある。 ニボルマブとの無作為化比較試験は存在しないが、 国内の後ろ向き研究において、 白金製剤抵抗性の再発・転移性頭頸部癌に対する両レジメンの治療成績が報告されている⁴⁾。
この報告によれば、 奏効率および無増悪生存期間 (PFS) はCmab+PTXが優れていた一方、 全生存期間 (OS) はニボルマブの方が長い傾向がみられた。 後ろ向き研究であるためエビデンスには限界があるが、 両群ともにPS 1~2の症例が多くを占めており、 実臨床での治療選択を検討する上で参考となる知見といえる。
ニボルマブとCmab+PTXの特徴は以下のとおりである。
上記を踏まえると、 たとえば病変部位が肺に限られるなど、 癌の進行に伴う症状が乏しい患者では、 全生存期間の延長を重視してニボルマブが優先的に選択される。
一方、 局所再発病変により症状を伴う患者では、 奏効率の高いCmab+PTXが優先すべき治療選択肢となる。
頭頸部癌では、 特に局所再発や切除不能例において、 窒息や頸動脈からの出血といった致死的イベントのリスクが高い。 白金製剤抵抗性で後方ラインの救援治療を検討する際、 とりわけ局所の合併症リスクが高い場合には、 緩和ケア病棟の確保や訪問診療を含む在宅サポート体制の整備など、 緩和医療の体制構築に時間を要することも多い。
そのため、 救援治療が緩和療養体制構築のための 「時間稼ぎ」 として実施されるケースもある。 レジメンの選択にかかわらず、 治療による奏効を目指すだけでなく、 緩和ケア体制の整備や急変時の対応方針についても、 患者およびキーパーソンとあらかじめ認識を共有しておくことが重要である。
▼ASCO2025解説
▼仲野兼司先生解説、 頭頸部癌薬物療法の解説
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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