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亀田総合病院

1日前

【呼吸器疾患】2025年4月の注目論文3選 (中島啓先生)

【呼吸器疾患】2025年4月の注目論文3選 (中島啓先生)
呼吸器領域で注目度の高い論文を毎月3つ紹介するシリーズです。 2025年4月に注目された呼吸器関連の論文を3つご紹介します (解説医師 : 亀田総合病院呼吸器内科 中島啓先生)。 

気管支拡張症、 新薬登場か?

▶︎N Engl J Med. 2025 Apr 24;392(16):1569-1581

背景|好中球性炎症を抑える新戦略は?

気管支拡張症の増悪や進行には好中球性炎症が深く関与しており、 この炎症を制御する治療アプローチが求められている。 特に、 炎症の鍵となる好中球セリンプロテアーゼ (NSP) の活性化を阻害することが開発ターゲットとなっている。 NSPの活性化にはDPP-1 (別名カテプシンC) などの酵素が関与する。 DPP-1阻害薬の先行研究AIRLEAFに続き、 今回、 経口の可逆的DPP-1阻害薬であるbrensocatibの第III相無作為化比較試験ASPENの結果が報告された。

研究概要|brensocatibの効果を検証

成人・青年 (12歳以上) の気管支拡張症患者1,721例を、 10mg群583例、 25mg群575例、 プラセボ群563例に無作為割付 (成人1:1:1、 青年2:2:1) し、 評価項目は以下に設定された。

  • 主要評価項目 : 肺増悪の年間発生率 (52週)
  • 副次評価項目 (階層的検定順序) :
  • 最初の増悪までの時間
  • 無増悪率 (52週時点)
  • FEV₁の変化
  • 重度増悪の発生率
  • QOLの変化

結果|肺増悪リスクが有意に低下

brensocatibは肺増悪の抑制や無増悪期間の延長などでプラセボに対して有効性を示した。

肺増悪の年間発生率

プラセボ群1.29に対し、 10mg群で1.02 (発生率比0.79、 p=0.004)、 25mg群で1.04 (同0.81、 p=0.005) と有意に低下した。

最初の増悪までの時間

ハザード比は10mg群で0.81 (p=0.02)、 25mg群で0.83 (p=0.04) と延長した。

52週時点での無増悪割合

無増悪は10mg群・25mg群ともに48.5%、 プラセボ群で40.3%であり、 発生率比は10mg群で1.20 (p=0.02)、 25mg群で1.18 (p=0.04) であった。

FEV₁の変化量

低下量はプラセボ群 62mL、 10mg群 50mL、 25mg群 24mLであった。 25mg群では有意差を認めた (vs プラセボ群、 p=0.04)。

安全性

有害事象は全群で同程度だったが、 brensocatib群では角化症がやや多かった。

My Opinion

brensocatibは、 気管支拡張症患者において肺増悪を有意に抑制し、 25mg群ではFEV1低下も軽減した。 有効な治療薬が乏しい本疾患において、 世界初の治療薬として今後の承認が期待される。

喘息の早期寛解、 予後にどう影響?

▶︎Thorax. 2025 Apr 15;80(5):273-282

背景|喘息治療で重要な「寛解」

喘息治療の進歩にもかかわらず、 多くの患者がコントロール不良や肺機能低下、 頻回の増悪を経験している。 こうした背景から、 「臨床的寛解 (CR) 」 が新たな治療目標として注目されている。 本研究では、 吸入ステロイド (ICS) 開始1年以内のCR達成が、 その後の肺機能低下や増悪リスクに与える影響を検討した。

研究概要|早期寛解と長期予後を追跡

本研究は、 韓国の2施設で行われた後ろ向きコホート研究で、 ICS治療を受けた成人喘息患者492例を対象とした。 ICS開始1年後の経過に基づき、 早期CR*を達成した群と非達成群に分類された。

*CRは以下の4項目の複合基準で定義された : ①持続的な増悪の不在、 ②全身性ステロイドの未使用、 ③症状コントロール良好、 ④肺機能の安定または改善。 すべて満たす場合を 「4要素CR」、 肺機能を除く3項目を満たす場合を 「3要素CR」 とした。

評価項目は、 年間FEV₁低下量と中等度~重度の増悪発生とした。

結果|早期寛解が肺機能低下を抑制

4要素CR達成群では、 早期CRを達成しなかった群に比べて、 年間のFEV₁低下量が平均で31.6mL少なかった (調整後β = 31.6、 p=0.001)。

3要素CR達成群では、 早期CRを達成しなかった群に比べて、 年間のFEV₁低下量が平均で15.7mL少なかった (調整後β = 15.7、 p=0.043)。

調整後βは多変量解析における回帰係数で、 他の因子の影響を統計的に除いたうえでの効果量を示す。

また、 4要素CR達成群では、 Type 2炎症高値喘息、 持続性気流制限を有する患者、 重症喘息患者、 LAMAによる追加治療を要する患者において、 効果が特に顕著であった。 加えて、 増悪リスクの低下も認められた。

  • 中等度~重度の増悪リスク : 調整ハザード比 (HR) = 0.591 (p=0.011)
  • 重度の増悪リスク : 調整HR = 0.508 (p=0.025)

My Opinion

本研究は、 喘息患者においてICS治療開始後1年以内に臨床的寛解 (CR) を達成することが、 長期的な肺機能の維持と増悪リスクの低減に寄与することを示した。 特にType-2高値喘息や持続性気流制限など、 制御が難しい表現型で効果が顕著であり、 早期CRを目指す治療の重要性が示唆される。

COPD、 ICS長期使用のリスクは?

▶︎Ann Fam Med. 2025 Mar 24;23(2):127-135

背景|ICS、 COPDでの適正使用とは?

国際ガイドラインでは、 COPDにおける吸入ステロイド (ICS) は、 末梢血好酸球数が300/μL以上、 入院を要する増悪または年2回以上の中等度増悪がある場合、 あるいは喘息を合併している場合に使用が推奨されている。 本研究は、 COPD患者に対するICSの長期使用に伴うリスクを評価することを目的とした。

研究概要|ICS長期使用リスクを解析

本研究は、 米国の複数のプライマリケア施設から収集された電子カルテ情報を標準化したデータベースを用いた、 大規模な後ろ向きコホート研究である。 45歳以上のCOPD患者を対象に、 ICSの使用期間に基づき、 24ヵ月を超える長期使用群と4ヵ月未満の短期使用群に分類し、 比較検討を行った。

主要評価項目は、 2型糖尿病、 白内障、 肺炎、 骨粗鬆症、 非外傷性骨折の新規発症からなる複合有害転帰であり、 加えて反復性肺炎および反復性非外傷性骨折の再発リスクも評価された。

結果|ICS長期で有害事象リスクが増加

既存コホート31万8,385例、 新規コホート20万9,062例の転帰が評価された。

既存コホート : 観察期間中のいずれかの時点でCOPDと診断された患者 (登録時点での診断を含む)。
新規コホート : データベース登録から6ヵ月以上経過かつ2回以上の受診歴があり、 その後初めてCOPDと診断された患者。

複合有害転帰 (長期群 vs 短期群)

  • 既存コホート : HR 2.65 (95%CI 2.62–2.68、 p<0.001)
  • 新規コホート : HR 2.60 (95%CI 2.56–2.64、 p<0.001)
  • 絶対リスク差 : 20.3% (95%CI 29.4%-9.2%)
  • 害必要数 (NNH) : 5

反復性肺炎のリスク (長期群 vs 短期群)

  • 既存コホート : HR 2.88 (95%CI 2.6–3.2)
  • 新規コホート : HR 2.85 (95%CI 2.5–3.2)

反復性骨折のリスク (長期群 vs 短期群)

  • 既存コホート : HR 1.77 (95%CI 1.4–2.2)
  • 新規コホート : HR 1.57 (95%CI 1.2–2.1)

My Opinion

本研究は、 電子カルテデータを用いた大規模コホート研究であり、 COPD患者におけるICSの長期使用が、 短期使用と比較して、 2型糖尿病、 白内障、 肺炎、 骨粗鬆症、 非外傷性骨折といった有害転帰のリスクを有意に増加させることを示した。

なかでも注目すべきは、 新規コホートにおける複合転帰のNNHが5と極めて小さい点である。 近年の各種ガイドラインでは、 ICSの適応は特定の患者群に限定する方向で整理されつつあるが、 本研究はその妥当性を支持する強力なエビデンスといえる。 日常診療において、 ICSの適応を再考するうえで重要な知見である。

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