『血液病レジデントマニュアル』の著者で自治医科大学附属病院血液科 教授の神田 善伸先生が、 実践的な要点をダイジェストでお届けする新連載です。 第1回は "貧血の鑑別診断" をテーマに、 貧血の定義から鑑別診断のステップ、 そして一歩進んだTipsまで解説いただきました。
貧血は循環赤血球容量が減少した状態であり、 WHOの基準では成⼈男性でヘモグロビン (Hb) 13g/dL以下、 成⼈⼥性でHb 12g/dL以下、 妊婦でHb 11g/dL以下を貧⾎と定義していますが、 加齢とともにヘモグロビンは低下しますので、 高齢者では11g/dL程度を閾値とするのが適切と考えられています (国内調査に基づく)。
一般に、 Hb 7~8g/dL以下になるとほとんどの患者が全身倦怠感、 頭重感、 めまい、 耳鳴り、 動悸、 息切れなどの自覚症状を呈します。
貧血の鑑別診断を考える上で重要なことは、 貧血が骨髄での赤血球の産生の低下で生じているのか、 それとも末梢での消費 (出血、 溶血など) の亢進によって生じているのかを考えることです (両者が混在することもあります)。
骨髄での新たな赤血球の産生量の指標として役に立つ検査値は網状赤血球 (reticulocyte) 数で、 健常な状態では赤血球の0.5~1.5% (5~15‰) が網状赤血球です。 赤血球の消費の亢進による貧血では貧血を補うために造血が活性化して、 網状赤血球絶対数が増加します。
消費の亢進による貧血なのに出血が明らかでない場合は、 溶血を考えてLDH、 間接ビリルビン、 ハプトグロビン、 Coombs試験 (赤血球の凝集反応を用いた検査) を提出するという流れになります。 網状赤血球絶対数が増加していない場合には、 赤血球の大きさ (平均赤血球容積 : MCV) から鑑別を考えて検査を進めます。 なお、 網状赤血球は大きいので、 網状赤血球が増加するとMCVは高くなります。
表. 貧血の鑑別診断 (主要な疾患のみ)
網状赤血球からのアプローチは、 病態に近づいた考察であるという利点がありますが、 MCVは通常の血算の結果として既に値が得られているため、 例えば閉経前女性の小球性貧血や胃切除後の大球性貧血などのように貧血の原因が絞り込みやすい状況では、 すぐにMCVに基づく鑑別診断を進めて良いでしょう。
一方、 白血球や血小板の異常 (鉄欠乏による軽度の血小板増多を除く) を伴っている場合は、 重篤な血液疾患が存在する可能性が高まるので早期に専門医の診断が必要です。 また、 鉄欠乏とビタミンB12欠乏が併存する場合は、 MCVが正常に近づくことがありますので注意してください。
網状赤血球は赤芽球が脱核したばかりの赤血球で、 翌日には通常の成熟赤血球になります。 赤血球の寿命が約120日ですので、 赤血球の1%程度が網状赤血球だとちょうど日々失われる赤血球を補っていることになります。
さらに細かく評価するには、 正常ヘマトクリット (Hct) や網状赤血球の成熟に要する時間を加味した指標として、 網状赤血球産生指数 (Reticulocyte Production Index、 RPI) が提唱されています。
正常Hctは男性で45%、 女性で40%、 成熟時間補正因子は男性は(3.25 - 0.05 ✕ Hct)、 女性は(3.00 - 0.05 ✕ Hct) として計算します。 RPIが3以上であれば貧血に対する正常な骨髄の反応、 2未満であれば不十分な反応と判断します。 貧血が無い場合のRPIの正常値は1となります。
次回は鉄欠乏性貧血について解説します。
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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